「坊っちゃんの時代」を読もうと思って検索すると、たいてい最初に版の多さでつまずきます。双葉文庫、新装版、カラー愛蔵版、大型の谷口ジローコレクション、そして電子。しかも全五部あるので、どれをどう買えば結局いくらになるのかが一目で分かりません。
関川夏央さんが書き、谷口ジローさんが描いたこの五部作は、明治という時代を「そこで生きていた人の体温」で描いた作品です。中身の紹介より先に、まず二〇二六年九月時点の実売価格を並べます。電子・読み放題・紙の三通りで総額を出すので、読み終えるころには自分がどの経路で買えばいいかが決まっているはずです。
迷ったら、この一冊から
『坊っちゃんの時代 : 1』(アクションコミックス・電子版)が入口です。第一部だけで漱石とその周りの空気がつかめるので、続けるかどうかをここで決められます。
全五部の順番と、それぞれ誰の話か
まず並びを確認しておきます。刊行順がそのまま物語の順なので、番号どおりに読むのが基本です。
第一部『「坊っちゃん」の時代』は夏目漱石。第二部『秋の舞姫』は森鷗外と、「舞姫」のもとになったとされる女性。第三部『かの蒼空に』は石川啄木。第四部『明治流星雨』は幸徳秋水と大逆事件。第五部『不機嫌亭漱石』はふたたび漱石で、修善寺で大量に血を吐いた「修善寺の大患」が軸になります。
主人公が部ごとに入れ替わるので、途中の一冊だけを単体で読むこともできます。ただし第五部は第一部を読んでいるかどうかで手ごたえがまるで違うので、この二冊だけは通しで読むことをおすすめします。第一部の電子版は本編二百五十ページ、文庫版は二百六十一ページで、一冊あたりの分量はそれほど重くありません。
何にいくらかかるのか、三つの経路に分解する
① 電子で五冊そろえる
Kindle版は一冊七百六十三円です。五冊で三千八百十五円。楽天Koboは一冊七百七十円なので、五冊で三千八百五十円とほぼ同額になります(いずれも本稿執筆時点)。買い切りなので、何年か置いてまた読み返す前提ならここが基準の金額です。完結する『坊っちゃんの時代 : 5 不機嫌亭漱石』(電子版)まで買っても、四千円に届きません。
② 読み放題で読む
五冊とも Kindle Unlimited の対象で、会員なら追加の支払いはゼロ円です。月額は九百八十円。つまりこの作品だけを一か月で読み切るなら、電子で買いそろえるより二千八百円ほど安く済みます。読み放題とレンタルの併用で他の長編も同じ月に片づけてしまえば、差はさらに開きます。
③ 紙でそろえる
双葉文庫は、第一部『「坊っちゃん」の時代』(双葉文庫)から始まり、いま新品で手に入りやすいのが第五部『「坊っちゃん」の時代』(双葉文庫)(九百十一円)くらいで、第二部から第四部は中古が中心です。中古なら一冊八十一円から三百円前後で見つかりますが、出品者がばらけると送料が五回ぶんかかることがあり、合計では電子と変わらなくなることもあります。大型の谷口ジローコレクションは一冊三千円台なので、五部そろえると一万円を超えます。
結局どれを選べばいいか
読み方の目的で三つに分かれます。
「合うかどうかを試したい」人は、第一部だけを電子で七百六十三円、あるいは読み放題で〇円。ここで止められる形にしておくのがいちばん損が小さい買い方です。
「五部を通しで読みたい」人は読み放題がはっきり安く、しかも部をまたいで行き来しても追加料金がかかりません。長編を全巻そろえるといくらかを比べたときも、五冊以上になると読み放題が有利に傾く分かれ目でした。
「手元に置きたい」人は、中古の文庫を一冊ずつ集めるのがいちばん安く、装丁で選ぶなら新装版かカラー愛蔵版です。
私はこう読みました
正直に書くと、私は第一部を電子で読んだあと、しばらく第二部に進みませんでした。明治の文人がぞろぞろ出てくるので、名前を追うだけで疲れてしまったのです。半年ほど置いてから第三部の啄木を先に読み、そこで初めて「この五部作は偉人伝ではなく、うまくいっていない人たちの話だ」と分かって、あわてて第二部に戻りました。
いちばん効いたのは第五部です。修善寺で血を吐いたあとの漱石の顔を見てから第一部を読み返すと、同じ場面の意味が入れ替わります。私はこのとき初めて、五冊まとめて手元に置いておく価値があると感じました。読み放題で通読してから、気に入った部だけ紙で買い足す。この順番がいちばん無駄が出ないと思います。なお大逆事件の評価には諸説あり、本作もひとつの解釈として読むのが安全です。
読み終えたあとに効いてくる一冊
明治から先の流れをまとめて眺めたいときは明治・大正・昭和を漫画と歴史小説で学ぶ完全ガイドが地図になります。同じ時代を医者の側から見たいなら手塚治虫『陽だまりの樹』、その先の昭和まで人物で追いたいなら能條純一『昭和天皇物語』へつながります。
現代の私たちへ
この五部作に出てくる人たちは、時代の速さに全員が乗り遅れています。新しい制度が次々に来て、追いつこうとして体を壊す。百年以上前の話なのに、読んでいるあいだ何度も現在のことを考えました。追いつけないことは、その人の失敗とは限らない——この一点だけでも、五冊ぶんの価値はあります。
▶ この作品を「『もう遅い』と言われる年齢から動いた歴史まんが・小説4選」でも取り上げました(五十歳の父・還暦の剣客・悪名を選んだ家老・三十八歳の新人作家)



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