明治から昭和までの約80年は、教科書でいちばん「用語は覚えたのに、人の顔が見えない」時代ではないでしょうか。条約の名前と年号は並ぶのに、そこで暮らしていた人がどんな朝を迎えていたのかが出てこない。わたし自身、日露戦争も太平洋戦争も、まんがを通ってからようやく「地続きの出来事」として腑に落ちました。ここでは明治・大正・昭和を時代順にたどれる名作を、読む順番つきで並べます。8月という月に読むなら、なおさら順番が効きます。
迷ったら、この1冊から。明治初期の日本を外国人旅行者の目でたどる旅行記まんが。近代史の入口として、用語も年号も要らないのが強みです。ガイドを最後まで読まなくても大丈夫です。まずは入口の1冊だけ手に取ってみてください。
この記事の使い方——上から順に読む必要はありません。気になった時代の1冊だけを抜き出して読み、面白かったらその前後へ広げてください。近代史は「入口をどこにするか」で難易度がまるで変わります。
① 明治初期|開国したばかりの日本を、外から見る
いきなり政治史から入ると挫折します。おすすめは「外国人旅行者の目」から入ることです。佐々大河『ふしぎの国のバード』は、1878年に日本を旅した英国人女性イザベラ・バードを主人公にした作品。まだ電気も鉄道も行き渡っていない東北・北海道を、驚きながら歩いていきます。
近代化は東京だけで起きたのではない——その当たり前が、読むと体感に変わります。※本作は史実を題材にした歴史フィクションです。細部には創作を含みます。
② 明治後期|日露戦争を、国の側と個人の側から
近代史のいちばん大きな山が日露戦争です。ここは司馬遼太郎『坂の上の雲』が定番でしょう。秋山好古・真之の兄弟と正岡子規を軸に、「小さな国が、なぜあの戦争に踏み込んだのか」を長い射程で追いかけます。全8巻と長いので、1巻だけ読んで合うかを試すのが現実的です。
※記録によれば/戦争の評価や個々の作戦の解釈は研究者によって差があります。本作は歴史小説であり、そのままの史実ではありません。
③ 明治末|戦争が終わったあとに残された人たち
戦争は終戦で終わりません。野田サトル『ゴールデンカムイ』は日露戦争の生き残りが北海道で金塊を追う物語ですが、同時にアイヌ文化と、開拓という名の収奪を正面から描いた作品でもあります。娯楽として抜群に面白いのに、読み終えると北海道の見え方が変わります。
※諸説あり/作中のアイヌ文化描写は監修を経ていますが、地域・時代による差があります。
④ 大正|わずか15年の、いちばん華やかな空白
大正は短く、教科書でも数ページで通り過ぎます。だからこそまんがで補うと効率がいい時代です。大和和紀『はいからさんが通る』は、女学生・花村紅緒の恋と成長を通して、関東大震災までの都市生活・女性の職業・洋装の広がりを丸ごと見せてくれます。
⑤ 昭和初期|なぜ止められなかったのかを、制度から見る
ここが近代史でいちばん難しく、いちばん大事なところです。おすすめは「感情」ではなく「仕組み」から入る2冊。
能條純一『昭和天皇物語』は、少年時代からの裕仁を追いながら元老・軍・政党がどう噛み合わなくなっていったかを描きます。三田紀房『アルキメデスの大戦』は、戦艦の建造費という予算と見積もりの一点から同じ時代に切り込みます。角度がまったく違う2作を並べると、立体的になります。
※諸説あり/いずれも歴史フィクションを含みます。実在人物の言動には創作が含まれます。
▶ 『昭和天皇物語』の詳細/▶ 『アルキメデスの大戦』の詳細
⑥ 戦時下|三つの距離から、同じ戦争を見る
ここは1冊では足りません。距離の違う3冊を並べるのが、いちばん誠実な読み方だと思っています。
世界の側から:手塚治虫『アドルフに告ぐ』
神戸・ベルリン・中東を舞台に、三人のアドルフの運命が交差する群像劇。日本の戦争が世界の一部だったことが体で分かります。
戦場の側から:武田一義『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』
やわらかい絵柄で描かれるからこそ、南洋の島で起きたことが直視できます。英雄譚にしないという一貫した姿勢が本作の強さです。
暮らしの側から:こうの史代『この世界の片隅に』
広島・呉で暮らすすずさんの日常が、少しずつ削られていきます。戦争が「特別な出来事」でなく生活の続きとして来るという描き方は、他に代えがききません。
▶ アドルフに告ぐ/▶ ペリリュー/▶ この世界の片隅に の各詳細はこちら
目的別・最初の1冊の選び方
- 近代史がとにかく苦手:①『ふしぎの国のバード』から。旅行記なので用語が要りません。
- 子どもと一緒に読みたい:④『はいからさんが通る』→⑥『この世界の片隅に』。暴力描写が比較的おだやかです。
- 大人の学び直し:⑤の2冊を並行で。制度と数字から入ると腹落ちします。
- 8月に1冊だけ読むなら:⑥『この世界の片隅に』。短く、そして長く残ります。
現代の私たちへ——この80年を通して読むと、決定的な瞬間はほとんど出てきません。小さな判断の積み重ねが、ある日もう戻れないところまで来ている。まんがが得意なのは、その「気づかなさ」を生活の目線で見せることです。年号を覚えるためではなく、いま自分が何を見落としているかを点検するために、この時代は読む価値があります。
まず一作、手を出しやすいところから
いきなり全巻を買いそろえなくても大丈夫です。読み放題や耳読みで相性を試すと、長編でも入口がぐっと下がります。
巻数が多い作品は、読み放題のほうが総額を抑えられることがあります。1冊ずつ買い足すか、月額で一気に読み切るかは、残りの巻数で決まります。まず対象作品に入っているかだけ確認してみてください。
まとめ
明治・大正・昭和は、①外から見る → ②日露 → ③戦後の北 → ④大正の都市 → ⑤制度 → ⑥戦時下の三つの距離という順で読むと、点だった知識が線になります。全部を読む必要はありません。気になった1冊から入って、前後へ広げてください。他の時代は下の完全ガイドからどうぞ。



コメント