『テルマエ・ロマエ』を読み終えたあと、同じ作者の古代ローマものがもう一つあると聞いて、長いあいだ積んだままにしていたのが『プリニウス』でした。手が伸びなかった理由ははっきりしていて、あの湯船の笑いをもう一度期待していいのか、見当がつかなかったからです。表紙の空気がまるで違う。同じ土地と同じ時代を扱っているのに、置かれている棚が別に見えました。
先日ようやく全12巻を通しで読みました。読み終えて最初に思ったのは、これは笑いの物語の続きではなく、世界を書き留めようとした一人の男の記録だったということです。この記事では、どんな作品なのか、『テルマエ・ロマエ』や『拳闘暗黒伝セスタス』とどこが違うのか、そして三つのうちどれから読むと迷わないのかを順に書いていきます。価格の表示はすべて2026年8月23日時点のものです。
迷ったら、まず1巻だけ。『プリニウス』は全12巻で完結しているので、途中で止まる心配がありません。合うかどうかは1巻の噴火前の空気で、だいたい分かります。
『プリニウス』はどんな作品か
『プリニウス』はヤマザキマリさんととり・みきさんの共作で、単行本はバンチコミックスから出ています。全12巻で完結済みで、最終巻の表紙にもはっきり「完」と入っています。長期連載の歴史まんがは途中で止まっているものも少なくないので、最後まで読めることが分かっている作品はそれだけで入りやすいと思います。
主人公は『博物誌』を著した古代ローマの博物学者、大プリニウス。物語は皇帝ネロの時代のローマを舞台に、噴火する山へ向かって進んでいきます。記録によれば大プリニウスは火山の噴火に際して船を出し、そのまま戻らなかったとされています。作品はその結末をあらかじめ知っている読者に向けて、逆算するように書かれています。
作画の分担も特徴的です。人物はヤマザキマリさん、風景や建築はとり・みきさんという組み立てで、ページをめくったときの「街の厚み」がほかの歴史まんがと明らかに違います。
あらすじ(結末には触れずに)
ローマ近郊で暮らす博物学者プリニウスは、目に入るものをかたっぱしから記録していく人物として描かれます。噴煙、鳥の骨、井戸の水、人の噂。役に立つかどうかを先に考えない。とにかく見て、書く。その姿勢だけで一巻が進んでいきます。
やがて物語はローマ市内へ移り、皇帝ネロの宮廷が並走して描かれるようになります。「観察する人」と「観られる人」を交互に置く構成で、片方が静かなときはもう片方が荒れている。中盤からは各地への旅が増え、属州の風景と人の暮らしが厚く積み上がっていきます。
そして終盤、あの山が動きます。ここから先は読んでいただくのがいちばんです。ただ一つだけ書いておくと、この作品の山場は噴火そのものではなく、噴火に対して人がどんな態度を取ったかのほうにあります。
読みどころは三つあります
一つめは、街の描写です。私は五巻あたりで一度読む速度が落ちたのですが、それは話が停滞したからではなく、背景を眺めてしまって先へ進めなくなったからでした。柱の欠け、壁の染み、路地の傾き。歴史の教科書で見る復元図とはまるで手ざわりが違います。
二つめは、プリニウスという人の書き方です。彼は英雄ではありません。人の死を前にしても観察をやめない。それを美談にも奇行にもせず、ただ「そういう人だった」として置いているところに、この作品の芯があります。
三つめは、ネロの扱いです。暴君として一言で片づけられがちな人物ですが、ここでは怯えたり甘えたりする顔が何度も出てきます。諸説ある人物をあえて断定せずに描くやり方で、読み終えたあとに「結局この人は何だったのか」と考え続けることになりました。
『テルマエ・ロマエ』『セスタス』とどれから読むか
同じ古代ローマを扱う三作を、迷いどころだけで比べます。目的が違えば正解も違うので、当てはまるほうを選んでください。
| 作品 | 向いている人 | 読み心地 | 巻数 |
|---|---|---|---|
| プリニウス | 史実寄りに、じっくり浸かりたい | 静かで重い。読む速度は落ちる | 全12巻・完結 |
| テルマエ・ロマエ | まず笑って入り口をつくりたい | 軽快。一話ずつ切って読める | 全6巻・完結 |
| 拳闘暗黒伝セスタス | 熱い勝負ものとして読みたい | 緊張が続く。止まらない | 長編シリーズ |
歴史をまじめに味わいたいなら『プリニウス』が最短です。ローマの空気に慣れていない段階なら、『テルマエ・ロマエ』を先に一冊はさむと、地名や身分の感覚がつかめて『プリニウス』の中盤が楽になります。私自身がその順で読んで、あとから「先に笑っておいてよかった」と思いました。
逆に、格闘や勝負の高ぶりを求めているなら『セスタス』が近道です。同じローマでも見ている場所が闘技場と書斎で正反対なので、三作を並行して読むより、目的を一つ決めて一作を通すほうが満足度は高いと思います。
いくらから読み始められるか
電子版は各巻730円から870円の帯で並んでいます。紙の単行本は楽天ブックスの表示で1巻が880円、最終12巻が814円でした。全12巻をそろえる前提なら、まとめ売りのセットを見ておくと総額が読みやすくなります。
私のおすすめは、1巻だけ買って噴火前の静けさに耐えられるかを試すことです。合わない人はここで止まりますし、合う人は十二巻あることがむしろ喜びになります。
読み終えたあとに世界をもう一段深く見たい方には、設定と時代背景をまとめた副読本もあります。
お得に読む
紙で手元に置きたい方は楽天の商品ページからも買えます。1巻と最終巻を先に押さえて、間を埋めていく買い方もできます。
まず一冊だけ試したい場合は、読み放題や聴き放題の初回無料を使う手もあります。対象作品は時期によって入れ替わるので、開いてから確かめてください。
現代の私たちへ。プリニウスがしていたのは、役に立つかどうかを判断する前に、見たものをそのまま書き留めることでした。私たちは逆で、先に意味を決めてから見ようとします。使い道の分からない記録を残しておける人が、いちばん遠くまで届く。全12巻を閉じたあとに残ったのは、その一点でした。
まとめ
『プリニウス』は全12巻で完結した、古代ローマの博物学者を描く歴史まんがです。笑いで入る『テルマエ・ロマエ』、勝負で入る『セスタス』に対して、この作品は観察で入る一作でした。静かな入り口ですが、いちばん長く残ります。ローマを一度きちんと歩いてみたい方に向いています。


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