山岸凉子『ツタンカーメン』のあらすじと読みどころ|まんが電子2,860円に新書880円を足して、少年王を物語と史実で往復する

漫画

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山岸凉子さんの『ツタンカーメン』は、黄金のマスクで知られる少年王の生涯を、王家の血筋と神々の交代という二つの軸から描いたまんがです。モーニングコミックスの電子版で全四巻。主役は王その人というより、彼が生まれてしまった家そのもので、父の代に起きた宗教改革の後始末を、十歳に満たない子どもが背負わされていく話として読めます。

『ツタンカーメン』はどんなまんがか

物語は、ツタンカーメンの父とされるアクエンアテンの時代から始まります。何百年も祀られてきた神々を捨て、太陽円盤だけを唯一の神とし、都まで新しく造ってしまった王の改革です。その改革が行き詰まったところへ、まだ幼い王子が王位に就く。少年王の治世は、ほとんどが「父が壊したものを戻す」作業でした。

山岸さんの描き方の特徴は、神話や奇跡を奇跡として処理しないところにあります。神託も呪いも、宮廷のだれかが誰かを動かすために使う道具として描かれる。だから読んでいるあいだ、神殿の場面でも息が詰まります。わたしが一巻を読み終えたとき最初に浮かんだ感想は「この子は一度も自分で何かを選んでいない」で、それは物語の最後まで変わりませんでした。

あらすじ(結末には触れません)

先王の宗教改革によって神官団と王家の関係は壊れ、国の内側は二つに割れています。王位を継いだ少年は、旧来の神々を復活させる方向へ舵を切りますが、その決定を実際に動かしているのは彼の周囲にいる大人たちです。姉であり妻でもある王妃との関係、将軍と神官長という二人の後見人、そして父の時代を知る者たちの沈黙。少年王は、だれを信じるかという一点だけを自分の手に残して生きていきます。

史実の側では、この王が十九歳前後で亡くなったこと、王墓がほぼ未盗掘のまま二十世紀に見つかったことが分かっています。死の経緯については長く暗殺説が語られてきましたが、近年の研究では否定される方向にあります。まんがは当然そこに解釈を置きますので、読むときは「これは作品の答え」と切り分けておくのが安全です。※諸説あります。

読みどころ

血筋が人を追い詰める構図

この作品で怖いのは敵役ではなく、血筋そのものです。王家の中で婚姻を重ねた結果として生まれる体の弱さ、跡継ぎができないことへの圧力、そのすべてが少年の側に集まってきます。悪意のある人物がいなくても人が壊れていく、という書き方になっていて、歴史まんがとしてはかなり珍しい手触りです。

神を替えるとは何をすることだったのか

宗教改革というと教義の話に聞こえますが、作中で描かれるのは、神殿が持っていた土地と倉と人手が王家へ移る、という生々しい移動です。だから戻すときも同じだけ揉める。制度の話を絵で理解させてくれるので、このあと新書を読むと用語の意味が先に体に入っている状態になります。

少女まんがの文法で古代を描く

山岸さんは『日出処の天子』で聖徳太子を孤独な天才として描いた人です。あの作品で使われた「権力の中心にいるのに誰とも通じ合えない」という造形が、ここでは古代エジプトの宮廷に移植されています。二作を続けて読むと、同じ作者が別の国で同じ問いを立てていることが見えてきます。

まんがと新書を足すと、いくらで何が分かるか

この作品を読んだあと、ほぼ必ず「で、実際はどうだったのか」が気になります。そこで合わせたいのが大城道則さんの『ツタンカーメン 「悲劇の少年王」の知られざる実像』(中公新書)です。黄金のマスクの印象から離れて、歴史学と考古学の研究にもとづいて王の実像と死の真相に迫る一冊で、暗殺説が近年どう扱われているかもここで確認できます。

軸まんが『ツタンカーメン』全4巻新書『ツタンカーメン』
初めての人向け◎ 人物の事情から入れる△ 王名と神名が先に来る
史実に近いか△ 人物の内面は作品の解釈◎ 研究にもとづく記述
短い時間で読めるか△ 四巻ぶんの長さ◎ 新書一冊
読後に残るもの家に生まれることの重さ少年王の実像と死の議論

価格は執筆時点の実測で、まんがの電子版が一巻715円の四巻ぶんで2,860円、新書の電子版が880円。合計3,740円で、物語と研究のあいだを往復できます。紙についてひとつ注意があり、この新書は調べた時点で楽天側に新品が並んでおらず中古のみでした。新品でそろえたいなら電子のほうが確実です。

まんが『ツタンカーメン』第一巻(電子715円)を見る

第二巻(電子715円)を見る

第三巻(電子715円)を見る

第四巻(電子715円)を見る

大城道則『ツタンカーメン』中公新書(電子880円)を見る

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こんな人におすすめ

  • 合戦ではなく、宮廷の内側で人が追い詰められる話を読みたい方
  • 世界史のうち古代エジプトだけ手つかずで残っている方
  • 『日出処の天子』が刺さった方(同じ作者の同じ問いが別の国で立っています)
  • まんがで入って、そのまま新書で確かめる読み方が好きな方

現代の私たちへ

この少年王がやらされていたのは、前任者が始めて行き詰まった方針を、本人の意図とは関係なく畳むことでした。始めた人はもういない、やめる理由は説明しづらい、それでも誰かが戻さなければ組織が止まる。わたしがこの作品を読み返すたびに効くのは、引き継いだ失敗を片づける仕事には手柄の形がつかないと書いてあるところです。前の体制が決めたことを今の自分が終わらせている、という心当たりがある方には、三千年前の話として読めなくなると思います。

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よくある質問

古代エジプトの知識がなくても読めますか

読めます。王名と神名はたしかに多いのですが、作中で人物の関係として説明されるので、固有名詞を覚えなくても筋は追えます。気になったときだけ新書の索引を引く、くらいでちょうどいいと思います。

史実とどのくらい違いますか

事件の並びは研究にそっていますが、人物の動機や会話は作品の解釈です。とくに死の経緯は作中で明確な形を取りますので、史実の議論は新書のほうで確認してください。※諸説あります。

どの順で読むのがよいですか

まんがを四巻通してから新書へ進む順をおすすめします。逆にすると、まんがの解釈が「違う」としか見えなくなってしまい、作品として楽しみにくくなります。

まとめ

『ツタンカーメン』は、黄金のマスクの手前にある家族と神殿の話です。まんがの電子版が全四巻で2,860円、史実側を確かめる中公新書の電子版が880円。合計3,740円で、物語と研究のあいだを行き来できる——これが今朝の実測です。古代エジプトを一度も通らずに来た方には、人の事情から入れるこのまんがが、いちばん戻ってこられる入口だと思います。

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