小池一夫・小島剛夕『子連れ狼』全28巻は今読んでも面白いのか|五十年前の劇画を通しで読み直した記録

子連れ狼 全28巻 小池一夫・小島剛夕 未分類

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『子連れ狼』は名前だけなら知っていました。乳母車を押す浪人と、そこに座る幼い子。あの絵柄です。ただ、連載が始まったのは一九七〇年で、いま数えると五十年以上前になります。全二十八巻という長さもあって、わたしはずっと「有名だけれど、たぶん自分には古い」と思って手を出していませんでした。今回それを通しで読み直したので、読む前に引っかかっていたことが実際どうだったかを、正直なところから書いていきます。

迷ったら、この一冊から。まずは第一巻だけ読んで、絵と間合いが自分に合うかを確かめるのがいちばん失敗しません。

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読む前に引っかかっていた三つのこと

  • 絵が古いのではないか。劇画調の太い線と濃い影は、いまの漫画の呼吸とはかなり違います。
  • 二十八巻は長すぎるのではないか。一話完結の刺客ものが延々と続くだけなら、途中で飽きる気がしていました。
  • 子どもを連れた復讐譚という設定が、いまの感覚で読めるのか。ここがいちばん不安でした。

結論を先に書くと、三つ目だけは最後まで引っかかり続け、一つ目と二つ目は読み始めて数巻で消えました。なぜそうなったのかを順に書きます。

実際に通しで読んでどうだったか

乳母車は小道具ではなく、物語の中心にある

読む前は、乳母車を「見た目のインパクトのための小道具」だと思っていました。違いました。あれは主人公の拝一刀が、幼い大五郎を捨てることも預けることもせず、刺客という仕事を続けるために自分で選んだ形です。だから乳母車が壊れる回、押せない地形に入る回、大五郎が自分の足で歩く回は、そのまま親子の関係が動く回になっています。装置ではなく主題でした。ここに気づいてから、一話完結の各エピソードが「同じ話の繰り返し」に見えなくなりました。

東海道という背骨が、長さを支えている

もうひとつ効いているのが、舞台が街道であることです。関所、宿場、渡し、峠。江戸時代の移動は自由ではなく、通るために身分を示し、季節と天候に縛られます。刺客の親子はその制約の中を進むので、行く先が変わるだけで話の条件がまるごと入れ替わる。時代小説を読んでいて街道の描写が退屈に感じたことがある方ほど、この作品での街道の使い方は発見だと思います。江戸という時代そのものを先に眺めておきたい方は、江戸時代を漫画と歴史小説で学ぶ完全ガイドから入ると、宿場や身分の話がつながります。

完結まで見届けたい方は、最終巻の存在を先に確かめておくと安心して読み進められます。

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主人公が、思っていたよりずっと負ける

刺客ものというと連戦連勝を想像していたのですが、拝一刀はかなり傷つきます。読み違えるし、間に合わないこともある。強さの見せ方ではなく、負け方の描き方が丁寧な作品でした。剣豪ものを読み慣れている方には、吉川英治『宮本武蔵』の求道的な強さとの差がはっきり出て面白いはずです。

正直に書くと、合わなかった点

手放しでは薦めません。まず残酷描写と性的な描写がかなり多い点です。時代の作法とはいえ、通勤電車で開くのはためらいます。次に中盤に構造の似たエピソードが続く時期があり、わたしはここで二週間ほど止まりました。そして最初に書いた不安のとおり、幼い子を危険の中に置き続ける前提そのものは、最後まで居心地が悪いままでした。作品はそれを正当化しないので不誠実ではないのですが、割り切れないまま読み終えたというのが本当のところです。

結局、全二十八巻を読み切れたか

読み切りました。止まった中盤を越えられたのは、一日一巻と決めずに、一日一話でいいことにしたからです。この作品は一話が短く、区切りがはっきりしています。連載時の呼吸そのままに、少しずつ進めるほうが向いていました。読み終えたあとで、江戸の市井を静かに描いた杉浦日向子『百日紅』を挟むと、同じ江戸でも見えている景色がまるで違って、これはこれで面白い読み方でした。

現代の私たちへ。拝一刀が抱えているのは、仕事を続けることと、子どもと一緒にいることを両立させる方法が制度の側に用意されていない、という問題です。彼の答えは極端ですが、「預ける先がないから連れていく」という判断そのものは、いまの働き方の悩みとそんなに遠くありません。五十年前の劇画がいまも読まれている理由は、剣戟よりむしろここにある気がしています。

どの版で読むのが自分に合うか

版がいくつもあって迷いやすい作品なので、選び方だけ整理しておきます。

  • まず試したい方=マンガの金字塔版(電子・全二十八巻)。一巻ずつ買えるので、合わなかったときの損が小さいです。
  • 一気に読み進めたい方=合本版。巻をまたぐ操作が減り、中盤の失速を越えやすくなります。
  • 紙で手元に置きたい方=愛蔵版(全二十巻)。判型が大きく、小島剛夕の描線と余白がいちばんよく見えます。

読み終えて物足りなければ、大五郎のその後を描いた続編もあります。原作は同じ小池一夫、作画は森秀樹です。

まとまった巻数を安く読む二つの入口

全二十八巻という長さは、そのまま買うと金額が読めません。読み放題と聴く読書の初回無料枠を先に確認しておくと、合わなかったときの損を実質ゼロにできます。歴史まんがを読み放題とレンタルで使い分ける具体的な手順はこちらの記事にまとめてあります。

あわせて読みたい:全3巻から全28巻まで、巻数で選ぶ歴史まんが・歴史小説4選

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