三国志の軍師といえば諸葛亮孔明。ただ、たいていの作品で孔明が出てくるのは物語のなかばからで、「三顧の礼」より前の孔明がどんな青年だったのかは、あまり描かれません。諏訪緑さんの『諸葛孔明 時の地平線』は、そこに一番長くページを割いた作品です。
この記事では、本作のあらすじと読みどころをまとめたうえで、横山光輝『三国志』全60巻・王欣太『蒼天航路』全36巻と比べて「自分はどれから読むべきか」まで決められるようにしました。三国志は入口を間違えると挫折しやすいので、順番の話まで正直に書きます。
迷ったら、まず1巻だけ試すのがおすすめです。
『諸葛孔明 時の地平線』とは|全14巻・文庫版は全8巻
諏訪緑さんが小学館の少女漫画誌で連載した歴史まんがで、単行本は全14巻、文庫版は全8巻で完結済みです。少女漫画のレーベルから出ていることもあって、戦の派手さより人の気持ちの動きを丁寧に追うのが本作の持ち味です。
三国志を扱った作品はたくさんありますが、主人公を諸葛亮ひとりに固定し、しかも「まだ何者でもなかった時期」を長く描く作品はそれほど多くありません。戦場の勝ち負けではなく、ひとりの若者が自分の使いどころを探していく話として読めます。
あらすじ|「臥龍」と呼ばれる前の、迷っていた青年
後漢の末、戦乱で故郷を追われた諸葛亮は、叔父を頼って荊州へ移ります。そこで学問と人脈を得ながら、いわゆる在野の知識人として日々を送る——というのが物語の出発点です。※諸説あり
本作がおもしろいのは、この「まだ仕官していない時間」を空白として飛ばさないところです。誰に仕えるのか、そもそも仕えるべきなのかを迷い続ける青年として孔明が描かれ、のちに劉備と出会う場面が、単なる名場面ではなく長い助走の到達点として立ち上がってきます。
結末まで読むと、教科書に載っている「五丈原に散った天才軍師」という一行が、まるで違う手触りで見えてきます。私は最終盤を読んだあと、しばらく本を閉じられませんでした。
読みどころ|歴史まんがとして、ここが強い
1|軍師になる前の「時間」に付き合わせてくれる
三国志ものは、どうしても合戦の連続になりがちです。本作は逆で、決断していない時間、待っている時間の描写が長い。ここに耐えられるかどうかが好みの分かれ目ですが、耐えた読者には「なぜ彼が自分を高く売ったのか」がはっきり分かります。
2|人物を「役割」で描かない
演義の影響で、三国志の登場人物はしばしば忠義・裏切り・愚かさといった役割で説明されます。本作はその手前に踏みとどまり、迷いや打算をそのまま描くので、劉備も関羽も生身に近づきます。
3|線が細く、読み進めやすい
劇画調の三国志に挫折した経験がある方ほど、本作の絵は入りやすいはずです。私自身、横山光輝『三国志』を20巻あたりで一度止めてしまった人間ですが、本作は絵の圧が軽いぶん最後まで走れました。
横山光輝『三国志』・『蒼天航路』とどっちから読む?
三作は「誰の視点で三国志を見るか」がまったく違います。目的別に整理しました。
| 作品 | 巻数 | 視点 | こんな人に |
|---|---|---|---|
| 諸葛孔明 時の地平線(諏訪緑) | 全14巻/文庫版全8巻 | 孔明ひとりの内面 | 孔明が好き・青年期から追いたい/絵の重い作品が苦手 |
| 三国志(横山光輝) | 全60巻 | 群像・通史 | 三国志そのものが初めて/まず全体像を掴みたい |
| 蒼天航路(王欣太) | 全36巻 | 曹操の側 | 「悪役の曹操」に疑いを持っている/人物論として読みたい |
史実寄りで読みたいなら横山光輝『三国志』が基準になります。演義をベースにしつつ流れを省略しないので、あとで他の作品を読むときの地図になるからです。ただし全60巻は長い。
短時間で読み切りたい、あるいは孔明という一人の人間に興味があるなら、本作から入って構いません。全14巻は三国志ものとしては短く、読み終えてから横山版に進むと、孔明が出てくる巻で「知っている人の話」として読めます。
全14巻をまとめて読むなら、どの買い方が安いか
本作は巻数が中程度なので、買い方の差が出やすい作品です。実際に比べると次のようになります。
| 買い方 | 向いている人 | 補足 |
|---|---|---|
| 電子の読み放題で読む | まとめて一気に読みたい | 対象作品は時期によって入れ替わるため、読みたい巻が対象かを申し込み前に確認してください |
| Kindle版を単巻購入 | 手元に残したい | 1巻ずつ買えるので途中でやめても損が小さい |
| 文庫版セット(全8巻) | 紙で揃えたい | 単行本14巻より冊数が少なく、棚に収めやすい |
| 単行本セット(全14巻) | 初出の判型で読みたい | 在庫は流動的 |
紙で揃えるなら、判型で選べます。
電子の読み放題で歴史まんがを面で読みたい方は、こちらもどうぞ。 BOOK☆WALKER マンガ・雑誌読み放題(初回14日間無料)を見る
現代の私たちへ
本作の孔明は、実力があるのに長く動きません。声がかかるのを待ち、条件が揃うまで自分を安売りしない。これは怠けているのではなく、どこで使われるかで結果が変わることを知っている人の振る舞いです。人生でも仕事でも、焦って手近な場所に収まってしまうことのほうが多い。待てる強さという意味で、この作品はいまの読者にもよく効きます。



コメント