葉室麟さんの『蜩ノ記』は、十年後に切腹することが決まっている武士が、その十年を家譜の編纂にあてる話です。舞台は豊後の羽根藩という架空の藩。第146回直木三十五賞を受けた一冊で、ここから始まる「羽根藩シリーズ」は文庫で全五冊そろっています。今朝は、その五冊を電子・文庫・単行本のどれでそろえるといくらになるのかを実測で分解しました。
『蜩ノ記』はどんな小説か
主人公の戸田秋谷は、藩の不祥事にかかわったとされて家譜の編纂を命じられ、その完成と同時に切腹するという処分を受けています。期限は十年。物語が始まるのは、その十年が終わりに近づいたころで、秋谷を監視する役として若い武士がひとり送り込まれてきます。読者はこの若者の目を借りて、死ぬ日が決まっている人の暮らしを見ることになります。
原作は『小説NON』(祥伝社)に2010年11月号から2011年8月号まで「秋蜩」の題で連載され、のちに『蜩ノ記』として単行本になりました。2014年には映画も公開されています。葉室さんは1951年に福岡県北九州市小倉で生まれ、2017年に亡くなった作家です。※出典は日本語版ウィキペディアの「蜩ノ記」「葉室麟」の各項目を本日実読しました。
わたしが最初に読んだとき意外だったのは、秋谷がまったく悲壮でないところでした。畑を耕し、子に字を教え、記録を一行ずつ書き足していく。日付が近づくことと、今日やるべきことがあることは、この人のなかで矛盾していないのです。読み終えてしばらく、自分の「締め切り」の受け取り方が少し変わりました。
あらすじ(結末には触れません)
若い武士は当初、監視役としてこの家に入ります。ところが家譜を読み、秋谷と家族の暮らしに触れるうちに、処分の前提そのものに疑問が生まれます。藩の記録に書かれていないことは何か、書かれてしまったことは誰を守るためか。家譜という「公式の記録」を扱う仕事が、そのまま事件の再検証になっていくのが本作の仕掛けです。
羽根藩は実在の藩ではなく、物語のために作られた藩です。ですから作中の事件を史実として読むことはできません。一方で、藩政の意思決定や記録のつくられ方といった枠組みは、江戸中期の藩の仕組みをふまえて書かれています。どこまでが時代の約束でどこからが創作かは、読みながら切り分けておくと落ち着いて楽しめます。※諸説あります。
羽根藩シリーズは全五冊。刊行順はこうなっている
「順番が分からない」という声がいちばん多いシリーズです。祥伝社文庫の発売日を本日Amazonで実測して並べると、次のようになります。各巻は独立して読めますが、藩の事件と人物が少しずつ引き継がれるので、刊行順に読むのが素直です。
| 順 | 書名 | 文庫の発売日 | ページ数 | 電子 | 文庫 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 蜩ノ記 | 2013/11/8 | 416 | 740円 | 755円 |
| 2 | 潮鳴り | 2016/5/12 | 400 | 755円 | 770円 |
| 3 | 春雷 | 2017/9/13 | 375 | 755円 | 770円 |
| 4 | 秋霜 | 2019/4/12 | 389 | 798円 | 814円 |
| 5 | 草笛物語 | 2020/9/11 | 336 | 770円 | 946円 |
五冊の文庫ページ数を足すと1,916ページです。長編を一本読むのではなく、四百ページ前後の連作を五回読む構成なので、一冊ずつ区切って進められます。
全五冊の総額を三通りに分解する
同じ五冊でも、どの版でそろえるかで金額がはっきり分かれます。本日実測した価格で合計を出すと、次のとおりです。
| そろえ方 | 合計 | いちばん安い巻/高い巻 | 向く人 |
|---|---|---|---|
| 電子(Kindle版)全五冊 | 3,818円 | 740円/798円 | 通読したい・在庫を気にしたくない |
| 祥伝社文庫 全五冊 | 4,055円 | 755円/946円 | 紙で読みたい・貸し借りする |
| 単行本 全五冊 | 8,302円 | 800円/2,222円 | 初版の判型で持ちたい |
分解すると、結論は三つに整理できます。ひとつ目、電子と文庫の差はたった237円です。五冊合計で缶コーヒー二本ぶんしか違わないので、金額で電子を選ぶ理由はほぼありません。ふたつ目、単行本だけが突出して高い=電子の2.17倍で、差額は4,484円。これは第一巻の単行本が2,222円と高止まりしているのが主因です。三つ目、巻ごとの値差は最終巻でいちばん開きます(草笛物語は文庫946円・電子770円で176円差)。つまり「五冊そろえるなら版をまたいで買い分ける意味は薄く、途中の一冊だけ急ぐなら電子が効く」という形になります。
一冊だけ買うなら、どれを選ぶか
五冊まとめる前に一冊で試したい方には、やはり第一巻の『蜩ノ記』をおすすめします。理由は単純で、このシリーズで最も評価が定まっている巻であり、しかも全五冊のなかで電子がいちばん安い740円だからです。合わなければ740円で止まります。
逆に、最後の『草笛物語』から入るのはおすすめしません。前の巻の人物を知っている前提で書かれている場面が多く、しかも文庫946円で五冊中いちばん高い。入口としては値段も読みやすさも不利です。
現代の私たちへ
秋谷の仕事は、自分を罰した組織の記録を、自分の手で正確に残すことでした。恨みで書けば記録は使えなくなり、媚びて書けば記録は意味を失う。わたしがこの小説を読み返すたびに効くのは、自分を不当に扱った相手についても、事実の部分は正確に書くしかないと示されているところです。引き継ぎ書を書きながら納得していない仕事がある方には、三百年前の藩の話として読めなくなると思います。
まず費用をかけずに読み始めたい方へ
読み放題や朗読の無料体験から入ると、合わない本に当たっても損をしません。対象作品は入れ替わりますので、気になる本があるかどうかはリンク先でご確認ください。
よくある質問
羽根藩シリーズはどの順番で読めばいいですか
文庫の刊行順=蜩ノ記→潮鳴り→春雷→秋霜→草笛物語です。各巻の主役は入れ替わりますが、藩で起きた事件の見え方が巻ごとに更新されていくので、この順に読むのがいちばん損がありません。
全五冊はどこで安く読めますか
本日の実測では電子の合計が3,818円、文庫の合計が4,055円で、差は237円です。単行本でそろえると8,302円になります。価格は変動しますので、最終的な金額はリンク先でご確認ください。
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