岡野玲子『陰陽師』全13巻を徹底紹介|安倍晴明と源博雅が歩く平安京、あらすじ・読みどころ【2026年版】

漫画

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平安京の夜は、今の私たちが想像するよりずっと暗かったはずです。灯りは限られ、都のすぐ外は闇。その闇の中に「何かがいる」と本気で信じられていた時代に、その何かと交渉することを仕事にしていた官人がいました。陰陽寮の陰陽師・安倍晴明です。私が岡野玲子さんの『陰陽師』を初めて開いたとき、いちばん驚いたのは、晴明が呪文で妖怪を吹き飛ばすヒーローではなかったことでした。彼はほとんどの場面で、ただ静かに座って、話を聞いています。

岡野玲子さんの『陰陽師』は、夢枕獏さんの同名小説を原作とする漫画作品です。ジェッツコミックスから全13巻で完結しており、その後の続編として『陰陽師 玉手匣』も刊行されています。

『陰陽師』とはどんな作品か

原作は夢枕獏さんの連作短編小説『陰陽師』。それを岡野玲子さんが漫画化したのが本作で、1990年代から2000年代にかけて描き継がれ、全13巻で完結しました。

主人公は安倍晴明。実在した平安中期の陰陽師で、天文・暦・占いを司る国家機関「陰陽寮」に属した官人です。そして相棒が源博雅。こちらも実在の人物で、笛の名手として知られた貴族でした。この二人が酒を酌み交わしながら、都で起きた奇妙な出来事について語り合う――基本の型はそれだけです。

ただ、この作品の凄みは絵にあります。岡野さんの線は巻を追うごとに変化し、後半では装飾的な文様と余白が画面を支配していきます。読んでいると、事件を追っているというより、平安京という空間そのものを歩かされている感覚になります。なお本作は史実の人物を題材にした創作で、事件や会話は物語としての創作です。晴明の逸話には後世の説話由来のものも多く、諸説あることを踏まえて読むのがおすすめです。

あらすじ(ネタバレ配慮)

都で不可解な出来事が起きるたび、源博雅は友人である晴明のもとを訪ねます。橋の上に立つ女、生き霊、名を奪われた人、鬼になったと噂される者。博雅はいつも憤ったり同情したりと感情が忙しく、晴明はそれを縁側で聞きながら、「では、行ってみるか」と腰を上げます。

晴明のやることは、たいてい派手ではありません。相手の名を確かめ、呪(しゅ)の仕組みを解き、こじれた関係をほどく。彼にとって「呪」とは、人が人や物に名前をつけて縛ること。つまり本作の怪異のほとんどは、人の思いが行き場を失った姿として描かれます。

巻が進むにつれ物語は説話的な一話完結から離れ、より大きな主題――道教や密教の世界観、宇宙と身体の対応――へ踏み込んでいきます。その転調こそが本作の白眉なのですが、そこは読んでのお楽しみです。

読みどころ3つ

①「呪とは名である」という一点で世界を説明しきる/第1巻で晴明が語る呪の定義は、この作品全体の設計図になっています。名をつけるとは縛ること。だから名を明かすことは危うく、名を取り戻すことは救いになる。怪異譚のはずが、いつの間にか言葉と人間の関係の話になっている――ここが一番の面白さです。

②晴明と博雅の距離感/理屈っぽく飄々とした晴明と、まっすぐで情に厚い博雅。二人が縁側で酒を飲む場面は、事件そのものより印象に残ります。私は読み終えたあと、しばらく「誰かと縁側で話す」ということに憧れていました。

③絵が物語と一緒に変貌していく/初期のすっきりした画面から、後半の曼荼羅のような密度へ。同じ作者が同じ作品を描きながら、ここまで作風が変わる例はそう多くありません。10巻以降の見開きは、意味を追うより先に、まず眺めてしまいます。

こんな人におすすめ

平安時代の暮らしや信仰に興味がある方、『源氏物語』や『応天の門』で平安京に親しんだ方、そして「派手なバトルではない歴史ファンタジー」を探している方に向いています。逆に、テンポよく事件が解決していく娯楽作を求めていると、後半は戸惑うかもしれません。その戸惑いごと味わうのがこの作品の読み方だと私は思っています。

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よくある質問

Q. 全何巻ですか?
A. 岡野玲子さんの『陰陽師』はジェッツコミックス全13巻で完結しています。続編『陰陽師 玉手匣』は別作品として全7巻が刊行されています。

Q. 原作小説を読んでいなくても大丈夫ですか?
A. 問題ありません。漫画版だけで独立して読めます。原作は連作短編なので、漫画を読んだあとに小説へ進むと二度楽しめます。

Q. 安倍晴明は実在の人物ですか?
A. 実在します。平安中期の陰陽師で、陰陽寮に属した官人でした。ただし「式神を使った」といった逸話の多くは後世の説話に由来するもので、諸説あります。

Q. 平安時代の他の作品も読みたいのですが
A. 菅原道真の青年期を描いた『応天の門』や、平安全体を見渡す平安時代の入門ガイドもあわせてどうぞ。

現代の私たちへ/晴明が言う「呪」は、要するにレッテルのことだと思います。あの人は怖い、あの部署は使えない、自分は向いていない。名前をつけた瞬間、私たちはその名前の通りに相手を扱いはじめ、相手もその名前の中に閉じ込められていく。晴明がやっているのは、その名前をいったん外して、もとの姿を見に行くことです。千年前の都の怪異譚が今も読めるのは、人を縛るものが千年変わっていないからなのでしょう。

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まとめ

岡野玲子さんの『陰陽師』は、怪異を退治する物語ではなく、こじれた思いをほどく物語です。全13巻という長さの中で、絵も主題も静かに変わっていきます。平安京の闇を、灯りを持って歩くような読書体験でした。読み終えたら、晴明をまつる晴明神社や、丑の刻参りの伝承が残る貴船神社を訪ねると、物語の景色がそのまま立ち上がってきます。

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