子どものころ、学校の図書室でいちばん借りにくかった本が『はだしのゲン』でした。表紙は覚えている。数ページだけめくって、そっと棚に戻したことも覚えている。怖かったからです。それから三十年ちかく経って、私はようやくこの作品を最初から最後まで通しで読みました。
読み終えて最初に思ったのは、これは「怖い本」ではなく「よく笑う本」だったということでした。子どもの私が見ていたのは、たぶん全体のごく一部です。この記事では、大人になって読み直して何が見えたのかと、いま買うならどの版がいいのかを、実際の値段と一緒に書いていきます。価格はすべて2026年8月21日時点の表示です。
迷ったら、文庫サイズの合本版から。電子の合本版なら第1巻から第7巻までが一つにまとまっていて、途中で巻を買い足す手間がありません。持ち歩きもしやすい判型です。
『はだしのゲン』はどんな作品か
作者の中沢啓治さんは、1939年に広島で生まれ、六歳のときに被爆した経験を持つ漫画家です。『はだしのゲン』は1973年に少年誌で連載が始まり、掲載の場を変えながら1980年代半ばまで描き継がれました。主人公は中岡元、通称ゲン。被爆前の広島から物語が始まり、その後の焼け跡の暮らしまでが続いていきます。
タイトルの「はだし」は、焼けた土の上を裸足で歩いても立っていくという意味に読めます。作中でくり返し出てくるのが麦です。踏まれても根を張って、また立ち上がる。この麦の話が、そのまま作品全体の背骨になっています。
大人になって読み直して、いちばん驚いたこと
驚いたのは、笑いの量でした。ゲンと弟分のやりとりはほとんど漫才ですし、大人を出し抜く場面はどれも痛快です。私が子どものときに数ページで閉じたのは、いちばん重い場面をたまたま開いてしまったからだったのだと、読み直してようやく分かりました。
もうひとつ意外だったのは、描かれているのが「あの日」だけではないことです。物語の分量でいえば、焼け跡での暮らし、住む場所と食べ物の確保、学校へ戻れるかどうか、といった日常の話がかなりの部分を占めます。記録によれば、作者自身が戦後をそこで生き抜いた人でもありました。だからでしょうか、生活の細部の書き込みが具体的です。お金の話、仕事の話、食べ物の話が、遠慮なく出てきます。
そして、読みながら何度か手が止まりました。重い場面はやはり重い。ただ、その重さは説明ではなく絵で来ます。言葉で理屈を足していない分だけ、読み手の側に判断の余地が残されている感じがしました。
版が三つある|全10巻・全7巻・完全版のちがい
いま買える形は大きく三つに分かれます。どれも中身は同じ物語ですが、判型と巻数と値段がかなり違います。
コミック版(全10巻)
いちばん流通している単行本の形です。全10巻でまとまっていて、セットでも買えます。一巻あたりの厚みが手ごろなので、途中でいったん置きたくなる作品としては、この区切りがいちばん読みやすいと感じました。
文庫コミック版(全7巻)
文庫サイズにまとめ直した版で、全7巻に再編集されています。冊数が少ないぶん一冊が厚く、持ち運びはこちらが有利です。電子には①〜⑦をひとまとめにした合本版もあります。通しで一気に読むつもりなら、この版がいちばん止まらずに進めます。
完全版(全7巻)
判型を大きくとった版です。値段は上がりますが、絵の情報量が多い作品なので、線と書き込みをきちんと見たい人にはこの版の意味があります。手元に長く置くつもりなら候補に入れてよいと思います。
いくらから読み始められるか
入口の値段だけを並べると、こうなります。電子の一巻目が七百円前後、文庫の一巻目も同じくらい。つまり千円を切る金額で、最初の一巻は試せます。そこから先は、全10巻セットで八千円台、文庫の全7巻セットで五千円台、完全版はもう一段上、という並びです。
私自身は、電子の一巻目を買って読み、続きは合本版に切り替えました。先に全部買わなくてよかったと思っています。この作品は、自分がどのくらいのペースで読めるかを一巻目で測ってから決めたほうがいい種類の本でした。
作者自身の言葉も残っています
中沢さんは晩年に、自分の生い立ちと作品について語った本を残しています。作品だけを読んで受け取ったものと、作者が何を思って描いたのかは、必ずしも同じではありません。本編を読み終えたあとに開くと、印象がもう一度変わります。
現代の私たちへ|この作品が長く読まれてきたのは、悲惨さを伝えるからというより、そのあとをどう生きたかまで描いているからだと思います。焼け跡でゲンがやったことは、食べるものを探し、住む場所を確保し、働き口を見つけ、それでも人を笑わせることでした。読んでいるうちに、こちらの目線が「かわいそう」から「この人はどうやって立て直したのか」へ移っていきます。非常時の話としてではなく、生活の立て直しの話として読めるのが、この作品の強さです。
お得に読む
紙で揃えるか電子で読むかは、置き場所と読むペースで決まります。以下は商品ページへの直リンクです。
まず一巻だけ試したい場合は、読み放題や聴き放題の初回無料を使う手もあります。対象作品は時期によって入れ替わるので、開いてから確かめてください。
読み終えたあとに残るもの
読み終えて数日、私の頭に残っていたのは大きな場面ではなく、麦を踏む場面でした。踏まれた麦は、そのぶん根を深くする。作品の中でこの話をするのは、いつも大人ではなく子どもに向けてです。説教として出てくるのに、少しも説教くさくない。そこが不思議でした。
読みやすい本ではありません。ただ、読みにくさの理由が、私が子どものころに思っていたものとはまるで違っていた。一度そこで閉じた人ほど、大人になってから開き直す価値がある作品だと思います。八月に読むと、なおさらそう感じました。



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