小樽 歴史さんぽ|運河・旧日本郵船・天狗山を歩く前に、三冊を「誰の目か」で比べる

歴史さんぽ

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小樽の運河沿いを歩いていて、いちばん不思議に思ったのは倉庫の大きさと、街の今の静かさが釣り合っていないことでした。これだけの石造倉庫が並ぶということは、ここに膨大な物と金が動いていた時期があったということです。ところが観光地として歩いているだけでは、その落差の理由がどこにも出てきません。

この記事は、小樽を「北のウォール街」と呼ばれた時代の現場として歩くための下ごしらえです。運河・旧日本郵船小樽支店・天狗山からの俯瞰という三か所を軸に、歩く前に読むと景色が変わる三冊を、同じ軸で比べます。三冊はそれぞれ「誰の目から見た小樽か」が違います。

小樽運河沿いに並ぶ石造とレンガの倉庫群
運河沿いの倉庫群。ここに荷を上げていた時代の話が、三冊の背景です

一冊だけ持っていくなら、まんがが強いです。『ゴールデンカムイ』は明治末の北海道を舞台にしていて、小樽の街も物語の要所として出てきます。土地の空気を絵で掴んでから歩けます。

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歩くのはこの三か所——運河・旧日本郵船・天狗山

1. 小樽運河(倉庫群)

まず運河沿い。ここは船から荷を小舟に移して倉庫へ上げるための水路として造られた場所で、いまの散策路の姿は後年の整備によるものです。倉庫の壁の厚さと窓の小ささを見ておくと、次の二冊の描写が具体的になります。所要は歩くだけなら30分ほど。

2. 旧日本郵船小樽支店

運河公園の横に建つ石造の建物です。記録によれば明治期の海運会社の支店として建てられ、国の重要文化財に指定されています。倉庫が「物」の現場なら、こちらは「取引」の現場です。二つを続けて見ると、この街に金融街のような呼び名が付いた理由が体で分かります。※諸説あり——公開日や内部の見学可否は時期によって変わるので、訪問前に必ず確認してください。

石造りの旧日本郵船小樽支店の外観
旧日本郵船小樽支店。荷ではなく契約が動いた場所です

3. 天狗山展望台からの俯瞰

最後に高いところへ上がって、街と港と海の位置関係を一度に見ます。山が海際まで迫っていて、平地がほとんどない——この地形を見ておくと、なぜ運河が必要だったのかが一目で分かります。ロープウェイの運行時間は季節で変わります。

天狗山展望台から見下ろす小樽の市街地と港
天狗山から。平地の少なさが、この街の作りを決めています

歩く前に読む三冊を、同じ軸で比べる

三冊はどれも小樽か、小樽につながる海の話です。比べる軸は「誰の目から見ているか」と「読み終わるまでの重さ」の二つにしました。

① 野田サトル『ゴールデンカムイ』——街を歩く人の目

明治末の北海道を舞台にした冒険まんがです。小樽は主要な舞台のひとつとして出てきて、坂と港と建物の連なりが絵で頭に入ります。三冊のなかでいちばん入口が広く、歴史の予備知識も要りません。

向いている人=はじめて小樽へ行く/土地の見取り図を先に作りたい。注意=長編なので、旅の前に読むなら数巻でやめておくのが現実的です。作品そのものの紹介は野田サトル『ゴールデンカムイ』は全何巻?とゴールデンカムイ 全31巻を徹底紹介にまとめてあります。

② 小林多喜二『蟹工船』——働かされる人の目

小樽で育ち、小樽の銀行に勤めていた作者が、北洋漁業の船内を描いた中編です。倉庫に上がっていく荷が、どこで誰の手を通ってきたのか——運河を見たあとにこれを読むと、風景の裏側が一気に出てきます。

向いている人=街の華やかさだけで終わらせたくない。注意=労働の過酷さを正面から描くので、読後感は軽くありません。文庫一冊で、二時間ほどで読み切れます。

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③ 司馬遼太郎『菜の花の沖』——海を動かす人の目

江戸後期の廻船商人・高田屋嘉兵衛を描いた長編です。小樽そのものの話ではありませんが、北の海と本州を結ぶ航路がどう成り立っていたかを知ると、明治の小樽が突然栄えたわけではないことが分かります。

向いている人=街ひとつでなく、海の側から日本史を見たい。注意=全六巻の長編なので、旅の前に読み切るのは無理があります。帰ってからで十分です。詳しくは司馬遼太郎『菜の花の沖』全6巻のあらすじと結末へ。

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結論——どれを先に開くか

  • 旅の前日に一冊だけ=①『ゴールデンカムイ』。絵で土地が入るので、その日の歩きがいちばん変わります。
  • 運河を見たその夜に=②『蟹工船』。短いので旅先でも読み切れて、翌日の見え方が反転します。
  • 帰ってから広げる=③『菜の花の沖』。海と航路の話へ視野を広げる役です。

迷ったら①→②の順で二冊。この二冊は「街を歩く人の目」と「働かされる人の目」で正面からぶつかるので、同じ運河が二度違って見えます。それが小樽をわざわざ読んでから歩く価値だと思います。

現代の私たちへ

小樽の倉庫街を歩いていると、栄えた理由と衰えた理由が同じ一つのこと——航路が通っていたかどうかだったと分かります。街の努力が足りなかったわけでも、急に怠けたわけでもありません。

これは働く場所を選ぶときにも当てはまる話だと思います。自分がどれだけ頑張れるかと同じくらい、いま自分がいる場所に航路が通っているかどうかが効く。倉庫の壁の厚さは、そのことを黙って教えてくれます。

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