レインボーブリッジの下に、四角い緑の島が浮かんでいます。観光で何度も見ているのに「あれは何か」を説明できる人は多くありません。江戸幕府が黒船への備えとして江戸湾に築いた砲台、品川台場です。記録によれば、アヘン戦争で清が敗れた報せが日本の海防論を押し上げ、ペリー来航の直後に築造がはじまりました。わたしが台場公園(第三台場)に上がって驚いたのは、土塁が思っていたより高く、海側がきちんと石垣で固められていたことです。ここは公園に転用された跡地ではなく、当時の設計がほぼそのまま残っている土木遺構でした。本記事では、歩く前に読んでおくと現地の見え方が変わる3冊を、目的別に比べます。※台場の基数や完成の経緯には諸説あります。
迷ったら、この一冊から
風雲児たち 幕末編(1巻・Kindle 518円)を見る
品川台場とは何か
ペリーの艦隊が浦賀沖に現れたのは一八五三年。幕府はその直後に、江戸湾へ入る航路をふさぐ形で砲台を並べる計画を立てます。設計を担ったのは伊豆韮山の代官・江川英龍(坦庵)で、韮山反射炉で大砲を鋳ようとしたのも同じ人物です。記録によれば計画は十基以上ありましたが、資金と工期の問題で全部は完成せず、実際に築かれたのは数基にとどまりました。
いま残っているうち、歩いて上がれるのは第三台場(都立台場公園)だけです。第六台場は海に浮かんだまま保存されていて、上陸口には石碑と立入禁止の標識が立っています。つまり品川台場は「見る史跡」と「歩く史跡」が海の上で並んでいる、めずらしい場所です。

歩く前に読む3冊を、目的別に比べる
同じ台場を扱っていても、3冊は読者に渡すものがまったく違います。わたしは3冊とも手元に置いたうえで、現地で実際に開いたのは1冊だけでした。先に結論を書くと、決め手は「価格」ではなく「現地で何をしたいか」です。
①土塁と石垣を自分で読み解きたいなら
淺川道夫さんの『お台場 品川台場の設計・構造・機能』(錦正社・単行本3,080円/2026年10月3日にAmazonで実測・残り2点)は、台場を建築物として分解した一冊です。どの方向へ砲を向けるために土塁がこの角度なのか、石垣の積み方は何を想定しているのか——現地で立ったときに「ここはこう使う場所だった」と読めるようになります。3冊でいちばん高く、いちばん専門的ですが、現物の前で開いて効くのはこれだけです。
②なぜ造られたのかを押さえたいなら
井上勝生さんの『開国と幕末変革』(日本の歴史18・講談社学術文庫・1,518円/残り9点)は、黒船から明治維新までの政治過程を一冊でたどる通史です。台場そのものの記述は多くありませんが、「幕府はなぜ金を借りてまで砲台を並べたのか」の答えはこちらにあります。先週この連載で歩いた下田・浦賀・韮山・出島が、一本の線でつながる感覚があります。※Amazonの商品名表記は「開国と幕末改革」になっていますが、同じ本です(2026年10月3日時点)。
③まず軽く入りたいなら
みなもと太郎さんの『風雲児たち 幕末編』1巻(Kindle 518円/紙576円)は、ギャグをまじえながら幕末の人間関係を追うまんがです。3冊でいちばん安く、いちばん速く読めます。台場の設計の話は出てきませんが、江川英龍や高島秋帆といった「海防の人たち」の顔が先に入るので、現地の説明板に出てくる名前が知らない人でなくなるのが大きい。
3冊をどう選ぶか
- 現地で開くなら①(3,080円・構造が読める)
- 行く前の夜に通して読むなら②(1,518円・理由が分かる)
- 通勤の行き帰りで入口を作るなら③(518円・人物が入る)
1冊に決めるなら、はじめて台場へ行く人には③を薦めます。安いからではなく、説明板が読めるようになるのが最短だからです。二度目に行くなら①に入れ替えると、同じ土塁がまったく別のものに見えます。

歩き方:上がれる台場と、見るだけの台場
第三台場へはお台場海浜公園から砂浜沿いに歩いて渡れます。入口を抜けると、まず土塁の内側に降りる形になり、かまど跡・陣屋跡・砲台跡が低い石積みで示されています。海側へ上がると、正面にレインボーブリッジ、その向こうに都心のビル群。砲を据えた方向と、いま船が通る航路がほぼ同じだと気づくと、ここが観光地ではなく軍事施設だったことが腑に落ちます。
反対に第六台場は、橋からも浜からも「渡る道がない」島として見えます。わたしはここで一度立ち止まりました。歩ける台場だけを見ていると「よく保存されている」と思うのですが、歩けない台場が隣にあることで、残ったのは一部でしかないという事実のほうが前に出てきます。
読む→歩く→また読む
台場は、知識ゼロで行くと「草の生えた四角い島」で終わります。逆に②で理由を入れてから行くと土塁の高さが意味を持ち、帰ってから①を開くと「あの角は横矢を掛けるためだったのか」と後から分かります。聖地巡礼のいいところは、現地で完結しないことです。帰り道にもう一度本を開ける題材を選ぶと、一度の外出で二度おいしい。
お得に読む
①現地で開く一冊
お台場 品川台場の設計・構造・機能(3,080円)を見る
楽天ブックスで『お台場 品川台場の設計・構造・機能』を見る
②行く前に通して読む一冊
開国と幕末変革(日本の歴史18・講談社学術文庫・1,518円)を見る
楽天ブックスで『開国と幕末変革』を見る
③いちばん軽い入口
風雲児たち 幕末編 1巻(Kindle 518円/紙576円)を見る
品川台場は、完成する前に役目が終わった施設です。砲が火を噴くことはなく、開国は交渉で決まりました。それでも幕府は巨額を投じて築いた——「使わずに済んだ備え」をどう評価するかは、いまの防災や保険とまったく同じ問いです。無駄だったと切り捨てるのも、あって良かったと言うのも簡単ですが、現地に立つと、どちらの言葉も少し軽く感じます。※評価は分かれており、ここでは結論を置きません。
まず月額で試してから決めたい人へ
Kindle Unlimited の無料体験を見る
Audible の初回無料を見る(移動中は耳で進みます)
(PR)本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。読み放題・聴き放題の対象作品は入れ替わるので、その都度ご確認ください。
結論:値段ではなく、現地で何をしたいかで決まる
はじめて行くなら『風雲児たち 幕末編』518円で名前を入れ、夜のうちに『開国と幕末変革』1,518円で理由を押さえる。二度目に行くときだけ『お台場 品川台場の設計・構造・機能』3,080円を持っていく——この順番がいちばん無駄がありません。いちばん高い本をいきなり買うと、現地で開く前に本棚へ戻ります。



コメント