浦賀 歴史さんぽ|黒船が来た港と煉瓦ドックを歩く前に読んだ『ペリー来航』と『氷川清話』を比べる

歴史さんぽ

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東京湾の入口、神奈川県横須賀市の浦賀。記録によれば1853年、ペリーの艦隊が姿を見せたのはこの沖でした。いま歩くと、黒船の記念碑よりも先に目に入るのは煉瓦のドックと砲台跡です。開国という言葉が教科書の見出しに縮む前の、現場の手ざわりがここには残っています。今回は浦賀の三か所を歩き、その前に実際に読んだ二冊、西川武臣『ペリー来航』と勝海舟『氷川清話』を、読んだ体験のまま比べます。

歩く前に一冊だけ選ぶなら
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浦賀で何が起きたのか(ごく短く)

江戸湾の出入りを見張る浦賀奉行所が置かれたのが18世紀の前半。以後この港は、外から来る船をまず受け止める場所になりました。記録によれば1846年にはアメリカのビッドルが、1853年にはペリーが浦賀沖に現れ、幕府は返答の時間を稼ぎながら海防を積み増していきます。開国が良かったのか悪かったのかは、いまも評価の割れる主題です。※諸説あります。この記事はその是非ではなく、決断の現場に何が残っているかを見ます。

歩いた順に、三つの場所

浦賀レンガドック(浦賀船渠)

浦賀レンガドックの船渠内部。石と煉瓦で築かれた壁と、底に並ぶ盤木
浦賀レンガドック。水を抜いた船渠の底に盤木が並ぶ(写真: PIXTA)

黒船から半世紀ののち、この港には造船所ができました。煉瓦で築いたドライドックは国内では数えるほどしか残っていません。底に降りた視点で見ると、船を載せるための盤木が整然と並び、壁面の煉瓦が水位の跡で色を変えています。黒船に驚いた側が、やがて自分たちで船を造る側になった。その移り変わりが一枚の風景に収まっているのがこの場所の強みです。

千代ヶ崎砲台跡

千代ヶ崎砲台跡の煉瓦積みの地下空間。壁の小窓に明かりが灯る
千代ヶ崎砲台跡の地下。煉瓦の壁に穿たれた小窓が灯りを受ける(写真: PIXTA)

高台にある砲台跡は、地下の空間がよく残っています。煉瓦のアーチを見上げると、ここが火薬や弾を守るための構造だったことがすぐ分かります。記録によれば、この台地には江戸期に平根山の台場が置かれ、のちに近代の砲台へ作り替えられました。つまり同じ丘が、幕府の海防と近代の要塞の両方を経験している。私はここに立って、海防が一度の決断ではなく積み重ねだったのだと腑に落ちました。

東叶神社

東叶神社の石鳥居と社号標、奥に続く石段と社殿
東叶神社の鳥居。港を背にして石段が山へ続く(写真: PIXTA)

港を挟んで西と東に叶神社があり、東側は勝海舟ゆかりの社として知られます。伝えによれば、咸臨丸で太平洋を渡る前の勝がこの裏山にこもって身を清めたとされます。※諸説あります。鳥居の先の石段はそれほど長くありませんが、登り切って振り返ると港が一望できて、ここから船出を思った人の気分が少しだけ想像できます。

歩く前に読んだ二冊

西川武臣『ペリー来航』=外側から、短時間で

中公新書の176ページ。艦隊が姿を見せてから条約が結ばれるまでの412日間を、日本側と琉球側の両方から追います。私は往路の電車で読み切りました。人物の内面には踏み込まず、いつ誰が何を決めたかの順番を整えてくれるので、地名と年号が頭の中でばらばらになっている段階の人に一番効きます。浦賀に着いてから「この沖に来たのがその日か」と時系列で結び直せたのは、この一冊のおかげでした。

勝海舟『氷川清話』=内側から、ゆっくり

講談社学術文庫で408ページ。晩年の勝が語った談話を集めたもので、通史ではありません。話は飛びますし、本人の自慢もかなり混じります。※記録としては割り引いて読む必要があります。それでも、幕府の側にいた人が開国をどう受け止めたかの肌ざわりは、この本でしか手に入りません。私は帰りの電車では読めませんでした。一話ごとに止まって考えたくなるので、家に帰ってから少しずつ進めるほうが合っています。

どちらを先に読むか

はじめて浦賀を歩くなら、迷わず『ペリー来航』が先です。短く、順番が整理でき、現地で地図と照らせます。史実の確かさを重く見る方にも新書のほうが向きます。逆に、通史をひととおり知っていて「当時の人は何を思っていたのか」を知りたい段階に来ているなら『氷川清話』です。一冊だけ選ぶなら前者、二冊読むなら前者から後者へ、というのが歩いたあとの実感でした。

現代の私たちへ

浦賀の三か所に共通するのは、決断そのものではなく決断のための準備が残っているという点です。砲台も、ドックも、船出前に山にこもった話も、いずれも本番の手前にある。私たちが歴史から受け取りやすいのは「開国した」という結果のほうですが、現地に残るのは準備の側でした。仕事でも、記録に残るのは結論だけで、そこへ至る助走は誰の目にも触れません。浦賀を歩くと、その助走のほうに人の時間の大半があったことが分かります。

読むための導線

まず順番を整えるなら(中公新書・176ページ)
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紙の新書は在庫が薄くなることがあります。すぐ読み始めたいときは電子が確実です。

当時の人の声を聞くなら(講談社学術文庫・408ページ)
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歩き方のメモ

三か所は港をぐるりと回る形になります。ドックは外周から眺める区間が中心で、砲台跡は高台なので上り下りがあり、歩きやすい靴が要ります。海沿いなので風が強い日は体感温度が下がります。公開の範囲や見学の可否は変わることがあるので、出かける前に各施設の最新の案内を確認してください。

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結論:一冊選ぶなら新書、二冊読むなら新書から

浦賀は、開国の「決まった瞬間」ではなく「決めるまでの積み重ね」が残る港でした。時系列を整えてから歩くと風景の意味が変わるので、最初の一冊は『ペリー来航』。歩いたあとで当時の温度を知りたくなったら『氷川清話』へ進む。この順番が、私の歩いた実感にいちばん合っていました。

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