外で覚えたことを持ち帰った人の歴史まんが・小説4選|十九年の亡命・西洋の弦・海の向こうの兵学・二つの言語

深紅と金の装飾背景に「外で覚えたことを持ち帰った人 歴史まんが・小説4選」と記したアイキャッチ おすすめ

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外の世界を見てきた人が、帰ってきてから強くなる——歴史を読んでいると、この型に何度も出会います。今回並べる四作は、舞台も時代もばらばらです。紀元前の中国、明治の名古屋、日露戦争の海、太平洋戦争下のアメリカ。それでも主人公たちは同じことをしています。自分の場所の外で覚えたものを持ち帰り、自分の場所のやり方に接ぎ木した。留学や亡命や移民といった言葉で呼ばれる経験を、その人がどう使い切ったかという目で読むと、四作は一本の線でつながります。

この四作に共通する効きどころ——「外で覚えたもの」は、そのままでは使えない

外国で学んだことを持ち帰る話は、ともすれば成功譚になりがちです。進んだものを輸入した、だからうまくいった。けれどこの四作が描くのは、その手前にある長い時間のほうでした。

持ち帰ったものは、そのままでは自分の場所で動きません。土地が違い、材料が違い、聞き手が違う。だから四人とも、覚えてきたものを一度ばらして、手元にあるもので組み直しています。その組み直しに何年もかかる。そこが読みどころです。

  • 紀元前の中国——十九年かけて諸国を渡り歩いた公子が、見てきた政治を自分の国で試す
  • 明治の名古屋——三味線をつくっていた職人が、見たこともない西洋の楽器を手さぐりで再現する
  • 明治の海——海の向こうで学んだ兵学を、まだ型のない日本の海軍に持ち込む
  • 戦時下のアメリカ——二つの言語を持つ者が、その二つのあいだに立たされる

「外に出た期間」を無駄だと思わずに読む

四作の主人公は、いずれも長いあいだ本筋から外れています。亡命が十九年、職人が試作を重ねた年月、留学と遊学、収容所で過ごした時間。当人にとっては、先の見えない停滞だったはずです。

ところが物語を最後まで読むと、その停滞の期間に見聞きしたものだけが、あとから効いてくる。本筋に乗っていたら出会わなかった人、通らなかった土地、使わなかった言葉が、そのまま持ち札になっています。四作を続けて読むと、外にいた時間の意味が後から変わっていく様子がはっきり見えました。

なお、いずれも実在の人物や史実を下敷きにしていますが、心情や会話の多くは作家の造形です。どこまでが記録でどこからが想像かは、読みながら一度立ち止まる価値があります(※諸説あり)。

四作を一作ずつ

『重耳』宮城谷昌光/十九年、外から自分の国を見続けた人

なぜ効くか。紀元前七世紀の中国。晋の公子・重耳は、継嗣争いに巻き込まれて国を追われます。そこから諸国を転々とすること十九年。受け入れてくれる国もあれば、冷たくあしらう国もある。亡命者という立場は、各国の政治を内側から観察できる立場でもありました。六十をこえて帰国し即位した彼が、春秋の覇者と呼ばれるまでになるのは、その十九年で何を見たかと切り離せません。

一人称の推し。私がいちばん惹かれたのは、待っている時間の書き方です。重耳は待たされ続けます。読んでいるこちらも、いつ話が動くのかと落ち着かなくなる。けれどその居心地の悪さごと、亡命という状態を追体験させられている感覚がありました。文庫は上中下の全三巻で完結します。四作のなかでは最も古い時代ですが、予備知識がなくても人間関係だけで追えます。

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『天上の弦』山本おさむ/三味線の職人が、西洋の楽器をつくるまで

なぜ効くか。明治の名古屋。三味線をつくっていた鈴木政吉が、当時の日本にはほとんど実物のなかったバイオリンに取りつかれます。手本になるものが目の前にない。外の技術を持ち帰るといっても、持ち帰れたのは「そういうものがあるらしい」という情報だけで、あとは和楽器の職人としての手の記憶で埋めていくしかありません。その埋め方が、この作品のいちばんの見どころです。

一人称の推し。読んでいて何度も手が止まったのは、失敗の描写でした。割れる、鳴らない、狂う。職人ものは完成の場面が山になりがちですが、この作品は山までの傾斜がとにかく長い。だからこそ、音が出た場面で私は本当に安心しました。全十巻。ものづくりの現場にいる方、独学で何かを続けている方に特に届く一作だと思います。

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『日露戦争物語』江川達也/海の向こうの兵学を、型のない海軍へ

なぜ効くか。松山に生まれた秋山真之が、海軍へ進み、やがて日露戦争の作戦立案に関わっていくまでを描きます。友人の正岡子規との日々に多くの紙幅が割かれ、学ぶとはどういうことかを、軍人と俳人という二つの方向から見せる構成になっています。秋山はのちに海の向こうで兵学を学び、まだ型の定まっていない日本の海軍にそれを持ち込む立場になりました。

一人称の推し。最初にお断りしておくと、この作品は連載が中断し、日露戦争の開戦前で止まっています。結末まで見届けたい方には向きません。それでも挙げたのは、少年期から青年期の「何をどう学んだか」の描写が、四作のなかで飛び抜けて細かいからです。私は結末がないことを承知のうえで読み、それでも十分に元が取れたと感じました。既刊は電子で追えます。

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『二つの祖国』山崎豊子/二つの言語を持つことが、重荷になるとき

なぜ効くか。太平洋戦争下のアメリカ。日系二世の天羽賢治は、日本語と英語の両方を持っていることで、収容所へ送られ、やがて語学兵として、さらに法廷の通訳として戦争のただ中に立たされます。外の言葉を持ち帰るどころか、二つの言葉のどちらからも疑われる。四作のなかで、この一作だけが「外で覚えたもの」を重荷として描きます。

一人称の推し。読み終えてしばらく、言葉が達者であることを手放しで良いこととは思えなくなりました。訳すという行為が、どちらの側にも立てないことと同じ意味になる場面がある。全四巻、決して軽い読み心地ではありませんが、四作を並べたときにこの一作があることで、外に出ることの代償まで視野に入ります。朗読版もあるので、活字が重い日は耳から入る手もあります。

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本命の一作から始めるなら

四作のうち、最初の一冊に最も向いているのは『重耳』です。全三巻で完結しているので終わりが見えていますし、紀元前の話でありながら、読み進めるのに必要なのは人間関係の把握だけ。国を追われた人が外から自国を見続けるという構図が、四作のなかでいちばん素直に出ています。紙の文庫でそろえるか、三冊ぶんをまとめた電子の合本で読むかは、置き場所と値段で選べます。

現代の私たちへ

四作を続けて読み終えて残ったのは、外で覚えたものは、持ち帰った時点ではまだ何の役にも立っていないという感触でした。重耳が見てきた各国の政治も、鈴木政吉が聞いた西洋の音も、そのままでは自分の国で動かない。動き出すのは、手元の材料で組み直したあとです。

転職や異動、留学や出向から戻ったときに似たことが起きます。向こうのやり方をそのまま持ち込んでも、たいてい通りません。通らなかったことを失敗と数えるか、組み直しの工程がまだ残っているだけだと数えるか。四人はそろって後者でした。外にいた時間が効いてくるのは、帰ってきてからさらに時間をかけた人だけだった——そこがいちばん実用的な読後感です。

まずは費用をかけずに一冊ためす

四作とも入口は文庫一冊か一巻ぶんなので、最初から全部そろえる必要はありません。読み放題や聴き放題の無料期間で一冊だけ試し、この手ざわりが自分に合うかを確かめてから買うのが確実です。対象作品は時期によって入れ替わるので、無料期間のうちに候補が入っているかを見ておくと無駄がありません。

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まとめ

紀元前の亡命、明治の工房、海軍の兵学、二つの言語。並べてみると、四作とも「自分の場所の外で覚えたものを、帰ってから組み直した人」の話でした。外に出た期間が長いほど、本筋から外れているように見えて、あとから効く持ち札が増えていきます。

読む順番に正解はありませんが、軽いほうから重いほうへ——『重耳』『天上の弦』『日露戦争物語』『二つの祖国』の並びが無理がありません。四作とも一冊または一巻で降りられる作りなので、合わなければそこで止められます。

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