「悪」と呼ばれた者を主役に据えた歴史まんが4選|奸雄・罪人・人斬り・処刑人の側から

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歴史には、後世に「悪」と名指しされた人たちがいます。奸雄、罪人、人斬り、そして処刑人。けれど彼らを主役に据えて物語を読み進めると、教科書の一行では決してわからなかった顔が浮かび上がってきます。そこにあるのは、悪意ではなく事情であり、選択であり、その時代の仕組みそのものでした。今回は「“悪”と呼ばれた側から歴史を見る」という一本の軸で、四作を選びました。

📖敵役・罪人・嫌われ者——その人の側に立って読むと、時代の景色がまるごと反転します。三国の中国から元寇の対馬、江戸、革命前夜のフランスまで、四つの角度からどうぞ。

この四作に共通する「効きどころ」

四作に共通するのは、「悪」というレッテルが、その人自身ではなく“その時代の都合”で貼られていたと気づかせてくれることです。勝者が歴史を書けば敗者は奸雄になり、身分の制度が誰かを罪人にし、社会が必要とした役目が、そのまま忌み嫌われる家業になる。主人公の側から読むと、悪の正体が「個人の性格」ではなく「時代の構造」だったことが見えてきます。

そしてもうひとつ。彼らはたいてい、自分の立場を言い訳にしません。与えられた場所で、自分なりの筋を通そうとする。その姿が、遠い時代の話なのにやけに刺さります。歴史を「善悪の采配」ではなく「人が置かれた状況の連続」として読む——その入口として、この四作はよく効きます。

“悪”と呼ばれた者を主役に据えた歴史まんが四選

① 王欣太『蒼天航路』全36巻 ― 「乱世の奸雄」曹操を主役に据える

三国志といえば劉備・関羽・張飛の側から語られるのが定番ですが、本作は真逆。長く敵役・悪役として描かれてきた曹操を主人公に置き、その合理性・才気・人間くささを正面から描き切った作品です(講談社モーニングにて1994〜2005年連載/原作・李學仁、作画・王欣太/第22回講談社漫画賞受賞)。

なぜ効くか:「悪役」という評価が、後世の物語のつくり方によって定着したものだと体感できます。曹操の視点に立つと、彼の非情に見える判断のひとつひとつに、乱世を終わらせるための筋が通って見えてくる。三国志を一度読んだ人ほど、世界が反転します。

初めて読んだとき、自分が今まで見ていた三国志は「劉備側のカメラ」でしかなかったと気づかされました。同じ出来事なのに、立つ位置が変わるだけでこんなに意味が変わるのかと。

▶ 『蒼天航路』の詳しい紹介を読む

② たかぎ七彦『アンゴルモア元寇合戦記』 ― 流刑の罪人たちが国境の島を守る

1274年の元寇(文永の役)。その最初の戦場となった対馬を舞台に、罪人として島へ流された者たちが、圧倒的な元軍と向き合う——教科書では「神風」の二文字で片づけられがちな元寇を、島の地べたから描いた歴史フィクションです。

なぜ効くか:中央から見れば「罪人」でも、島の現場では戦える者はその人しかいない。身分や罪状という物差しが、命がけの場面でどれほど無意味かが突きつけられます。元寇=神風という単純な理解が、はっきり更新されます。

元寇にこんな戦場があったのか、と地図を開き直しました。国境の島に生きた人たちの必死さは、他人事に思えませんでした。

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③ 沙村広明『無限の住人』全30巻 ― 百人斬りの「人斬り」が背負うもの

江戸を舞台に、不死の身体を得た「人斬り」万次が、親の仇討ちを望む少女・凛の用心棒となる時代活劇(講談社アフタヌーンにて1993〜2012年連載/全30巻完結/第1回手塚治虫文化賞優秀賞、米アイズナー賞受賞/2017年に木村拓哉主演で実写映画化)。不死の設定は創作で、歴史フィクションとして描かれた作品です。

なぜ効くか:百人を斬った男が「もう斬らない」ではなく「斬った事実を抱えたまま生きる」を選ぶ。復讐の連鎖のなかで、誰が悪で誰が正義かがどんどん溶けていきます。斬る側・斬られる側、どちらにも事情がある——その居心地の悪さこそが本作の核心です。

読み進めるほど「敵役」に感情移入してしまい、自分の中の善悪の線がぐらつきました。これほど後味を残す時代活劇はそうありません。

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④ 坂本眞一『イノサン』全9巻 ― 忌み嫌われた家業「死刑執行人」の側から

18世紀フランス、革命前夜。代々パリの死刑執行人を務めるサンソン家に生まれたシャルル=アンリ・サンソンを主人公に、社会から必要とされながら忌避され続けた一族を描いた耽美な歴史大作(週刊ヤングジャンプにて2013〜2015年連載/全9巻/続編『イノサンRouge』)。

なぜ効くか:「死刑を執行する」という役目は、社会が決めた制度です。にもかかわらず、嫌悪はその制度ではなく、担わされた個人へ向かう。悪とは誰が引き受けさせられるのか——フランス革命という大きな転換を、いちばん重い場所から見上げることになります。

華麗な絵柄と主題の重さの落差に、何度もページを戻しました。革命の光の裏側に、こんな家族がいたのかと。

▶ 『イノサン』の詳しい紹介を読む

現代の私たちへ

第一に、「悪」の多くは、その人の性質ではなく“立っている場所”に貼られたラベルだということ。曹操も、流された罪人たちも、人斬りも、処刑人も、生まれた位置と時代の仕組みが評価を決めました。誰かを一言で断じる前に、その人が立たされた場所を見る——それだけで見え方は変わります。

第二に、歴史は「勝った側のカメラ」で記録されるということ。語り手が変われば同じ出来事の意味が変わる。ニュースでもSNSでも、私たちは今日も誰かのカメラで世界を見ています。反対側の視点を一度だけ想像してみる価値は、たしかにあります。

第三に、それでも人は、与えられた場所で筋を通せるということ。四作の主人公は境遇を言い訳にしません。選べない条件のなかで、選べる部分をどう選ぶか。私たちの日常も、案外そこで決まっている気がします。

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まず一作なら、この作品から

四作のどれから読むか迷ったら、「悪と呼ばれた者の側に立つ」という感覚をいちばん濃く味わえる入口として『無限の住人』をおすすめします。斬る側の物語でありながら、読み終えるころには善悪の線そのものを疑うようになる——このテーマの体験として、いちばん強度があります。

まとめ

「悪」と呼ばれた側から歴史を読むと、善悪の采配だった歴史が、人と仕組みの物語に変わります。曹操の合理、対馬の罪人たちの覚悟、人斬りが背負い続けたもの、処刑人の家に生まれた宿命——四作はどれも、レッテルの下にある一人の人間を見せてくれます。気になった一作から、反対側のカメラを覗いてみてください。

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※本記事の作品情報は執筆時点のものです。巻数・配信状況は変わることがあります。作品はいずれも創作を含む歴史フィクションとしてお楽しみください(諸説あり/記録によれば)。

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