宮島 歴史さんぽ|五重塔と千畳閣、神仏習合が残る「祈りの島」を歩く【2026年7月】

歴史さんぽ

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宮島の写真といえば、海に立つ朱の大鳥居です。けれども島を歩いてみると、その手前と奥に、大鳥居と同じくらい面白いものが並んでいます。神社の隣に立つ五重塔、壁も天井もないまま四百年以上たった巨大な建物、そして山そのものが信仰の対象だった痕跡。今回は「大鳥居ではない宮島」を、祈りの重なりという視点で歩きます。

厳島神社 客神社の祓殿と、背後に見える五重塔
回廊の入口にある客神社の祓殿。背後の丘に五重塔が見える。(写真:denkei / PIXTA)

参拝は「客神社」から始まる

回廊に入って最初に現れるのが客神社(まろうどじんじゃ)です。本社より先に参拝する社で、写真の手前に写っている建物がその祓殿(はらえどの)にあたります。多くの人が大鳥居に目を奪われて通り過ぎてしまう場所ですが、順路としてはここが起点です。

そもそも社殿が海の上にあるのは、島そのものが神域と考えられていたためとされます。陸を削って建てるのではなく、潮の満ち引きする場所に柱を立てた——参拝の作法が建築の形になっている、と考えると回廊の見え方が変わります。※創建年代や由緒には諸説あります。

神社のとなりに五重塔が立っている島

写真の奥に写る五重塔は、神社の境内のすぐ隣、丘の上に立っています。神社と仏塔が並んでいることに違和感を覚える方もいるかもしれませんが、これは神仏習合——神と仏を分けずに祀った、日本で長く続いた信仰のかたちの名残です。

記録によれば五重塔は室町時代の応永年間(1400年代前半)に建てられたと伝えられます。明治の神仏分離によって、島の仏教的な要素の一部は近くの寺院へ移されたとされますが、塔そのものは残りました。神社の朱、塔の朱、そのあいだにある境界が、あとから引かれたものだと分かる場所です。※建立年・移座の経緯には諸説あります。

千畳閣——未完のまま四百年たった大経堂

五重塔のすぐ隣にあるのが、通称千畳閣(せんじょうかく)。豊臣秀吉が戦没者の供養のために建てさせた大経堂で、現在は豊国神社として知られています。特徴は、壁がなく、天井板も張られていないこと。秀吉の死によって工事が止まり、そのままの姿で残ったと伝えられます。

床に座ると、柱の間から瀬戸内の海が見えます。完成した建築の立派さではなく、途中で止まった建築が持つ静けさのほうが記憶に残る場所でした。権力者の計画が、その死とともに宙に浮いたまま四百年を過ごしている——歴史の教科書には収まりにくい感触があります。※中断の経緯・規模には諸説あります。

改修工事を終えた厳島神社の大鳥居
改修を終えた大鳥居。海上の門はいまも島の入口として立っている。(写真:コニー / PIXTA)

山を拝む島——弥山と大聖院

島の背後にそびえる弥山(みせん)は、原始林が残る山で、古くから信仰の対象とされてきました。麓の大聖院は宮島でもっとも古い寺院のひとつと伝えられ、弘法大師(空海)が開いたと伝わります。

つまり宮島には、海の社(厳島神社)・丘の塔(五重塔)・山の寺(大聖院と弥山)が層のように重なっています。ひとつの島に、時代の異なる祈りが同時に置かれている。これが「祈りの地」としての宮島の本当の姿だと思います。※開創の伝承には諸説あります。

なぜ平家はこの島を選んだのか

厳島神社を現在の規模に整えたのは平清盛とされます。宮島は瀬戸内航路の要にあたり、平家は日宋貿易を含む海の道で力を蓄えました。航海の安全を祈る場所を、自分たちの権力の象徴として整えた——信仰と経済が同じ方向を向いていたわけです。

清盛の栄華とその後については六波羅蜜寺、平家の終わりについては赤間神宮・壇ノ浦の記事でも歩いています。宮島は、その物語の「上り坂」の側にある土地です。

現代の私たちへ

千畳閣は未完成のまま残りました。それでも人は四百年、そこに上がって海を眺めてきました。完成しなかったものが役目を失うとは限らない——壁のない建物が、いちばん風の通る場所になっていました。

境界も同じです。神と仏を分ける線は、後の時代の都合で引かれました。いま当然に見える区切りが、必ずしも最初からあったものではない。宮島を歩くと、その順番を思い出せます。

読んでから歩くと、もっと面白い

平家の視点から宮島を見るなら、吉川英治『新・平家物語』が入り口になります。清盛が海に目を向けた理由と、その一族が滅びるまでの流れを物語として追えるため、島の朱色の意味が変わって見えます。

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よくある質問

五重塔や千畳閣は、厳島神社とは別の場所ですか

回廊を出てすぐの丘の上にあり、歩いて数分の距離です。神社の参拝とあわせて回れます。拝観の可否や時間は季節・行事によって変わるため、訪ねる前に確認してください。

大鳥居の改修工事は終わっていますか

大規模な保存修理は完了し、現在は覆いのない姿を見ることができます。※点検・小規模な工事が入る場合があるため、最新情報は公式の案内をご確認ください。

神仏習合とは何ですか

神道の神と仏教の仏を、対立させずに一体のものとして祀った信仰のかたちです。明治初期の神仏分離令によって制度上は分けられましたが、宮島のように建物や地名にその名残が残っている土地は各地にあります。

まとめ

宮島は、大鳥居の一枚絵で語り尽くせる島ではありません。回廊の入口に立つ客神社、丘の上の五重塔、壁のない千畳閣、そして山そのものを拝んだ弥山と大聖院——海・丘・山に、それぞれ別の時代の祈りが積まれています。平清盛が航路の守り神としてこの島を整え、のちに秀吉が未完の大経堂を残した。読んでから歩くと、朱色の意味が一段深くなります。

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