奈良井宿 歴史さんぽ|中山道の宿場を歩く前に、『夜明け前』と『一路』を値段で比べる

歴史さんぽ

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長野県塩尻市、木曽路の北の入口に奈良井宿があります。中山道六十九次のうちの一つで、一キロほどまっすぐ続く町並みがそのまま残っている場所です。歩いていて驚くのは、ここが観光のために作られた景色ではなく、今も人が住んでいる通りだということでした。街道と宿場をめぐる本は数多くありますが、現地へ行く前に読むなら二冊で足ります。しかも入口の値段は八倍以上違います。

奈良井宿はどんな場所か

長野県塩尻市 奈良井宿の古い町並み
出格子と庇が続く通り。電柱が地中化されているため、視界に現代の線がほとんど入りません。(写真:PIXTA)

中山道は、江戸と京都を内陸で結んだ街道です。海沿いの東海道に比べて距離は長く、山道も多いのですが、大河の渡しがないぶん日程が読めるという利点がありました。参勤交代の行列や、姫君の輿入れが中山道を選んだのはそのためです。

奈良井宿は、その中山道でも難所とされた鳥居峠の手前に置かれた宿場でした。峠を越える前にここで一泊する人が多く、記録によれば「奈良井千軒」と呼ばれるほど賑わったと伝えられます(※諸説あり)。旅籠が集まり、櫛や漆器の細工も名産になりました。

歩くと分かる、宿場の形

奈良井宿 下町界隈の旧中山道の宿場町
通りは下町・中町・上町に分かれ、途中で少しずつ表情が変わります。(写真:PIXTA)

通りを歩くと、二階が一階より少し前へせり出した建物が続きます。出梁(だしばり)造りと呼ばれる形で、限られた間口のなかで二階の面積を稼ぐ工夫です。間口が狭く奥が深いのは、間口の広さで税が決まった時代の名残だと説明されています。

私が面白かったのは、通りの途中に水場がいくつも設けられていることでした。旅人が喉を潤し、荷を担ぐ人が顔を洗った場所です。宿場は寝るための施設ではなく、人と馬と荷物を次の宿へ受け渡すための装置だった——歩いているとその機能がそのまま形になって残っているのが見えます。

「住む側」と「通る側」で、街道は別物に見える

奈良井宿 木曽の宿場町の町並み
夕方に近づくと軒先に灯が入り、通りの奥行きが強く見えてきます。(写真:PIXTA)

街道の本を読むとき、視点は二つに分かれます。ひとつは宿場に住み、通り過ぎる人を見送る側。もうひとつは行列を組んで街道を通る側です。同じ道を扱っていても、書かれるものはまるで違います。

奈良井宿へ行く前に読むなら、この二つを一冊ずつ持っておくと現地の見え方が変わります。以下、実際の価格で並べました。

現地に行く前に読む2冊を、値段で比べる

①島崎藤村『夜明け前』──木曽路に住む側から

「木曽路はすべて山の中である」という一行から始まる長編です。舞台は奈良井宿と同じ木曽路の馬籠宿で、主人公は宿場の本陣・庄屋を務める家の当主。幕末から明治へ移る時代を、街道の側から見続ける物語です。通り過ぎる人の数が変わり、制度が変わり、やがて街道そのものの役目が終わっていく——その変化を宿場の内側から受け止める視点は、奈良井宿の通りに立つ前に入れておくと効きます。

値段の幅がいちばん大きいのもこの作品です。新潮文庫の第一部(上)は825円。いっぽう電子の全巻合本版は99円で、四部すべてが入ります。著作権の保護期間が切れているため電子版が安く、先に99円で読み始めて、気に入ったら紙で買い直すという降り方ができます。

電子の全巻合本版(99円)を見る
新潮文庫 第一部(上)825円の在庫を見る

②浅田次郎『一路』──中山道を通る側から

父の急死で跡を継いだ若い供頭が、参勤交代の行列を率いて中山道を江戸へ向かう話です。行列は毎日どこかの宿場に泊まり、荷を替え、人足を集めながら進みます。読んでいるあいだ、ずっと街道の上にいる作品なので、奈良井宿が「通る人にとって何だったか」が体で分かります。

中公文庫の上巻が792円、下巻が704円で、二冊そろえると1,496円。電子版も巻ごとに出ていて、確認した時点では下巻のKindle版が690円でした。つまり紙と電子で総額はほとんど変わらないので、持ち歩くか本棚に置くかだけで選んで構いません。

中公文庫『一路』上巻(792円)を見る

③もう一冊だけ足すなら──『浅田次郎と歩く中山道』

『一路』の舞台を著者自身がたどった一冊で、704円。小説ではなく道中記なので、現地へ持って行く本として素直です。二冊では足りないと感じたときだけ足してください。

『浅田次郎と歩く中山道』(704円)を見る

三つの観点で、どちらから読むか決める

①出費をいちばん小さく始めたいなら──①の電子合本、99円です。街道ものが自分に合うかどうかを、缶コーヒー一本より安く試せます。合わなければそこで止まります。

②現地で情景が浮かぶのはどちらか──②です。行列が宿場に着く場面が何度も出てくるので、奈良井宿の通りに立ったとき「ここに人と馬が詰まっていた」と映像で戻ってきます。

③時代の変わり目を知りたいなら──①です。街道が鉄道に置き換わっていく過程まで描かれるため、宿場が残った理由と、消えた宿場との差が分かります。

メリット二冊とも文庫・電子で手に入り、合計しても二千円台に収まります。
向かない人・注意どちらも小説です。年号や制度は現地の解説板や自治体の資料で確かめてください。

江戸時代そのものを作品で追いたい場合は江戸時代を漫画と歴史小説で学ぶ完全ガイドを、幕末から明治へ抜ける流れは明治・大正・昭和を漫画で学ぶ完全ガイドにまとめてあります。同じ中山道の宿場をもう一つ歩くなら軽井沢 歴史さんぽが、街道の関所を東海道側から見るなら箱根関所 歴史さんぽが対になります。浅田次郎の作品をもう一冊読むなら『壬生義士伝』が近い書き味です。

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現代の私たちへ

奈良井宿を歩いて残ったのは、役目が終わった場所が、なぜここだけ残ったのかという問いでした。鉄道が通り、街道が主役でなくなったとき、多くの宿場は建物を建て替えて別の町になりました。奈良井が残ったのは、豊かだったからではなく、むしろ建て替える余力がないまま時間が過ぎたからだと説明されることがあります。そして残ったことが、百年後に価値になりました。事業でも同じことが起きます。いま効率が悪く見える持ち物が、条件が変わった日にだけ効いてくる。どれを手放し、どれを抱えたまま待つのか——その判断だけは、あとにならないと採点されないのだと思いました。

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