日本史の教科書で東北がまとまって登場するのは、奥州藤原氏と戊辰戦争くらいではないでしょうか。ところが小説とまんがの側から眺めると、みちのくは八世紀の蝦夷から、平泉の黄金文化、戦国末期の九戸、明治の北海道まで、千年以上つながった一本の物語として読めます。
このページは、その千年をどの順番で読むと迷わないかをまとめた入門ガイドです。時代順に作品を並べ、それぞれ「何がわかるか」「どこから入ると挫折しないか」を添えました。
どれか1冊から、という方へ。みちのくの入口としていちばん外さないのはこの上下巻です。
みちのくの千年を、4つの時代に分けて読む
まず全体像です。みちのくを描いた作品は、おおむね次の4つの時代に集まっています。どこから読んでも構いませんが、興味のある時代から入って、前後へ広げるのがいちばん続きます。
| 時代 | できごと | 入口になる作品 |
|---|---|---|
| 八世紀後半 | 朝廷の遠征と蝦夷の抵抗 | 『火怨 北の燿星アテルイ』 |
| 十一〜十二世紀 | 前九年・後三年の役、平泉の黄金文化 | 『炎立つ』 |
| 十六世紀末 | 九戸政実の乱、奥羽の再編 | 『天を衝く』 |
| 十九〜二十世紀 | 戊辰戦争、北海道の開拓 | 『ゴールデンカムイ』 |
八世紀|「蝦夷」と呼ばれた人たちの側から読む
朝廷が東北へ軍を送り続けた時代です。教科書では坂上田村麻呂の名前だけが残りますが、迎え撃った側にも指導者がいました。高橋克彦さんの『火怨』は、その阿弖流為を主人公に据えた長編で、みちのくの物語の出発点として最初に読むのに向いています。※諸説あり
同じ時代を、都との政治的な駆け引きの側から描いたのが『風の陣』の連作です。武力衝突だけでなく、中央の官職や交易をどう使って生き延びるかという視点が入るので、『火怨』のあとに読むと立体感が出ます。
十一〜十二世紀|平泉はなぜ黄金の都になれたのか
前九年の役・後三年の役を経て、奥州藤原氏が平泉に拠点を築きます。金と馬という産物があり、都と適度な距離を保てたことが背景にありました。『炎立つ』は全5巻でこの三代を描き通す作品で、なぜ平泉が独自の文化を持てたのか、そしてなぜ源頼朝に滅ぼされたのかまでが一続きで理解できます。
この時代は、源義経が兄に追われて平泉へ落ちのびる話ともつながります。都の側から同じ出来事を見たいときは吉川英治『新・平家物語』を、平泉のその後を決めた鎌倉の側から見たいときは鎌倉時代の完全ガイドへ進んでください。さらに、義経が死なずに大陸へ渡ったという俗説を出発点にした『ハーン ‐草と鉄と羊‐』まで来ると、みちのくの北の果てがユーラシアにつながります。
十六世紀末|秀吉に最後まで屈しなかった北の城
戦国の終わりというと小田原で話が閉じがちですが、その翌年、南部氏の一族である九戸政実が奥羽で最後の抵抗をしています。『天を衝く』は、この九戸政実を主人公にした全3巻。中央から見れば一地方の反乱でも、当事者にとっては生活と誇りを賭けた戦いだったことがよくわかります。
この時代の東北を歩くなら、伊達政宗が再建した瑞巌寺のある松島の歴史さんぽが近いです。
十九〜二十世紀|北へ、そして北海道へ
戊辰戦争のあと、東北と北海道は近代の入口を一気に通過します。野田サトル『ゴールデンカムイ』は明治期の北海道を舞台に、アイヌの文化と旧幕軍の残党を同じ画面に置いた作品で、「北の歴史は中央史の外側にあるのではなく、その延長にある」ことが体感できます。
もう一冊、外からの視線として『ふしぎの国のバード』を挙げておきます。明治初期に東北を縦断した旅行家の記録が原作で、当時の暮らしがそのまま描かれています。
読んだあとに歩く|みちのくの歴史さんぽ
このサイトでは、作品と土地をつなぐ記事もまとめています。読んでから歩くと、同じ景色の見え方が変わります。
- 奥入瀬渓流・十和田湖 歴史さんぽ|『火怨』『炎立つ』『天を衝く』どれから読むか
- 松島 歴史さんぽ|芭蕉が句を残さなかった島と、政宗が再建した瑞巌寺
- 秋田・竿燈まつり 歴史さんぽ|「ねぶり流し」から始まった夏の火
現代の私たちへ
みちのくの物語に共通するのは、中央の物差しで測られると必ず「辺境」になってしまう場所の話だということです。それでも金を掘り、馬を育て、文化を残した人たちがいました。評価の基準を他人が持っているとき、こちらにできるのは実績を積むことだけ——という点で、この千年は今の仕事にもよく似ています。
巻数が多い作品は、読み放題のほうが総額を抑えられることがあります。1冊ずつ買い足すか、月額で一気に読み切るかは、残りの巻数で決まります。まず対象作品に入っているかだけ確認してみてください。
まとめて読むなら
ここまで挙げた作品はいずれも長編です。全部そろえると冊数がかさむので、読み放題や聴き放題の初回無料期間で相性を見てから買い足す方法もあります。
費用をもう少し詰めたい方は、読み放題とレンタルの併用術もあわせてどうぞ。
まとめ
みちのくの歴史は、八世紀の阿弖流為から始まり、平泉、九戸、そして北海道へと千年つながっています。最初の1冊は『火怨』、平泉まで進みたければ『炎立つ』、戦国の終わりを北から見たければ『天を衝く』。まんがから入るなら『ゴールデンカムイ』が入口です。読み終えたら、奥入瀬や松島を歩きに行ってみてください。
▶ あわせて読みたい:平泉・中尊寺 歴史さんぽ|三代の跡を歩く前に読む3冊を比べる



コメント